ロレックス GMTマスター総覧

FEATURE本誌記事
2019.12.15

ベゼル素材とペットネームで振り返るGMTマスター史

1954年、オイスター パーペチュアル GMTマスターはパイロットに向けたタイムゾーン判別用の腕時計として発表された。以来、そのデザインはほとんど変わっていないが、ベゼルのカラーバリエーションは増え、かつ素材に改良を加えることでますます人気を誇っている。

ロレックス GMTマスター

ロベルト-ヤン・ブレーア:文 Text by Robert-Jan Broer
ベルト・ブイスロッヘ:写真 Photographs by Bert Buijsrogge
市川章子:翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

 オイスター パーペチュアル GMTマスターは、数あるロレックスのプロフェッショナルモデルの中でも特に垂涎の的として挙げられるもののひとつだ。その歴史は航空産業と深く結び付いている。アメリカの航空会社のパン・アメリカン航空が大西洋横断ルートの航路を取り入れた時、当然のごとく複数のタイムゾーンを表示できる時計が必要となった。当時のパイロットにとって、飛行を非常に正確に遂行することはとりわけ重要だったため、時計は高精度でなくてはならなかった。そこでパン・アメリカン航空は、ロレックスが開発したGMTマスターを公式時計として採用したのだ。

 GMTマスターは1954年に発表、翌55年に発売されて以来、パン・アメリカン航空のみならず、NASAやアメリカ空軍のパイロットたち、そして世界を股にかけて飛び回るビジネスマンにも愛用されてきた。というのも時差ぼけを克服するには、現在地と出発地の時刻を同時に目で確認できることが心理的に有効で、シンプルに効果が得られるという説もあるからだ。

ロレックス Ref.6542

1954年に登場したGMTマスターのファーストモデルRef.6542。当時はリュウズガードがないデザインだった。

 ファーストモデルのリファレンスナンバーは6542。リュウズガードがなく、ベゼルに象眼された24時間表示スケールはフェノール樹脂製だった。しかしこのプラスティックパーツは非常に壊れやすく、2年後にはアルミニウム製に替えられている。このアルミニウム製ベゼルに変更されたモデルは映画『007 ゴールドフィンガー』にも使用されていて、女性パイロットのプッシー・ガロアが手首に着けているのを見ることができる。Ref.6542は59年頃まで製造されていた。

 オールドタイプのGMTマスターの中で、一番知られているモデルはRef.1675だろう。このモデルは60年頃から80年頃まで作られていた。製造が長期間にわたっていたため、かなりの本数が作られているはずだが、それはRef.1675がいかに良好な状態を維持し、問題なく使えるものであり続けたかという証しでもあろう。一部のコレクターなどは、むしろやや使い込まれたものを好む傾向にある。

ロレックス Ref.1675

GMTマスター第2作のRef.1675。1960年頃から80年頃まで製造されたロングセラーだ。

 60年代後期まで、24時間表示用副時針の先端の三角は小さなものだったが70年代に入ると三角部分が大きくなった。この頃にそそり立つような形のリュウズガードも加わり、初期のバージョンに比べると印象が際立つように変化している。そしてGMTマスターは、オイスターケースとジュビリーブレスレットを採用したロレックス初のプロフェッショナルウォッチと言われていることも覚えておきたい。

ファット・レディ

 Ref.1675は81年頃に新たなムーブメントを搭載して光沢のある文字盤を採用したRef.16750に置き換わった。しかしこのモデルは88年頃までしか製造されなかったため、今や極めて珍しいものとして探し求められている。もっとも、それよりさらに貴重なものとされているのは、〝ファット・レディ〞と呼ばれる82年登場の初代GMTマスター ⅡのRef.16760だ。このモデルからセカンドタイムゾーンの設定に回転ベゼルを使用するだけでなく、初めて時針の単独早送り修正もできるようになった。その上〝ファット・レディ〞は名前が示すようにケースに厚みがあり、がっしりしたリュウズガードとサファイアクリスタル製風防を備えている。このモデルのベゼルは、通称〝コーク〞と呼ばれる赤と黒で半々に色分けされたものだけだ。

ロレックス Ref.16750

1981年頃から製造されたRef.16750。生産本数が少なく、愛好家に人気の希少モデルだ。

 Ref.16750の後継機となったのは、89年に発表されたRef.16700だ。このモデルの発売当時は夜光塗料にまだトリチウムが使われていたが、97年頃からスーパールミノバに替えられた。このRef.16700は、99年頃までGMTマスターⅡのRef.16710と並行して販売された後、生産を終えている。このRef.16700の生産終了に伴い、GMTマスターはロレックスのカタログから消えることとなる。

 Ref.16710は1989年頃から2007年まで製造されたが、その間にもいくつか変更された箇所がある。このモデルも途中で夜光塗料がトリチウムに代わってスーパールミノバが取り入れられた。ブレスレットのクラスプは当初打ち抜きのパーツが使われていたが、より厚みのあるがっしりしたものになった。ベゼルには3種類のカラーがあり、黒、赤と黒(通称〝コーク〞)、赤と青(通称〝ペプシ〞)で展開されていた。

ロレックス ef.16710

1989年頃から2007年まで製造されたGMTマスター ⅡのRef.16710。ベゼルは“ペプシ”や“コーク”、ブラックの3種類がラインナップされていた。

 その後GMTマスター Ⅱは、05年に18Kゴールドケースモデルが発表された。ちなみにリファレンスナンバーの数字の最後が8になっているモデルは、ゴールドケース仕様であることを示している。06年にはロレゾールバージョンとして、Ref.16713LNも登場した。ロレゾールモデルはロレックスでは早くから存在していて、〝ルートビア〞〝ニップル(フジツボ)ダイアル〞、デイトジャストの〝タイガーアイ〞などのペットネームとともに、特別感を醸し出すものとして取り入れられてきた。

文字盤が“ニップルダイアル”仕様の18Kゴールドケースモデル。ステンレススティールモデルとは異なる趣がある。

 07年にはステンレススティールケースのRef.116710LNが発表された(LNは〝リュネット・ノワール〞の略で黒ベゼルを表す)。このモデルは前作に若干手を加えた仕様で、ケースサイズはやや大きく、ベゼルにセラミックスを採用し、リュウズはトゥインロックに代わってトリプロックになった。多くのロレックス愛好家にとって喜ばしいのはブレスレットに手が加えられたことで、明らかにしっかりした作りに変わっていることだ。13年には青と黒の通称〝バットマン〞ベゼルも初登場した。18年は新型ムーブメントを搭載したステンレススティールモデルの〝ペプシ〞がジュビリーブレスレットでコレクションに加わっている。そして19年、GMTマスター Ⅱの全モデルに新キャリバー3285が搭載されるに至っている。