ゼニスの「デファイ エル・プリメロ21」をレビュー

FEATUREWatchTime
2020.01.22

1969年に誕生した自動巻きクロノグラフムーブメントの中で、最も早い段階に発表されたのがゼニスのエル・プリメロだ。クォーツウォッチ最盛の時代に一度は市場からその姿を消したが、その後復活。今日に至るまで50年前の基本設計を引き継ぎつつ、熟成を続ける。そんなエル・プリメロに、36万振動/時で振動するクロノグラフ専用輪列を通常輪列とは別に設けることで100分の1秒の時間計測を可能にしたCal.エル・プリメロ9004が2017年に登場。今回はこの次世代型エル・プリメロを搭載する「デファイ エル・プリメロ21」をレビューしたい。

Originally published on watchtime.com
Text by Martina Richter
Edit by Tsuyoshi Hasegawa

ゼニス「デファイ エル・プリメロ21」

デファイ エル・プリメロ21

ゼニス「デファイ エル・プリメロ21」
自動巻き(Cal.エル・プリメロ9004)。53石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ti(直径44mm)。10気圧防水。128万円(税別)。

 2時位置にある大きな長方形のプッシャーを押して「デファイ エル・プリメロ21」のクロノグラフをスタートさせると、大きく驚かされることがある。細長い針が文字盤の周りを光速のごとき早さで回転するのだ。一周にあたり僅か1秒しか掛からない。チタン製ケースの中には、このハイスピードを可能とする機械式構造が内包されており、そのクロノグラフ専用輪列は36万振動/時で鼓動している。これにより100分の1秒の経過時間の計測が可能となっているのだ。36万振動/時は1秒間に100回の振動を意味しており、ひとつの経過時間を測る針に対していくつものステップがあるのだ。

 100分の1秒の計測は正確に文字盤外周上のリングの上に表示されており、視認性は高い。再び2時位置のプッシャーを押すと、中央のクロノグラフ針は直ちに停止し、エレガントなソード型の針が秒数を指し示してくれる。10の単位で配されたクリアなアプライドインデックスが示すのは10分の1秒、その間のインデックスは100分の1秒を示している。

 経過秒を表すダイヤルは6時位置に配されている。読み取った時間が24秒、10分の7秒、100分の3秒であれば、それは24.73秒ということになる。確かに経過秒を表すダイヤルは視認性を考慮したものだが、ただし40秒から52秒については張り出したテンプに阻害されるかのように、くぼんだ形状を余儀なくされている。経過秒針がこの部分で停止すると、ゆがんだライン状インデックスゆえに読み取りは難しくなる。

 振動数の高いクロノグラフのため、クロノグラフ秒針も非常に高速で稼働する。それとは対照的に、経過分を表示する針は1分間に1回だけ進む。この表示は3時位置に位置し、一般的な30分単位の積算計となっている。クロノグラフの動力は、追加の巻き上げをしない場合、約50秒稼働するのに十分なものとなっている。香箱を完全に巻き上げるには、リュウズを25回転する必要がある。

 この魅力的な機構を動かすのは、前述の通りクロノグラフ専用輪列で、それ用の香箱と調速機構も備えている。時分秒針を動かす、いわゆる通常輪列は他のエル・プリメロと名のつく歴代キャリバーと同様に3万6000振動/時で駆動する。

 通常の時間表示のムーブメントはリュウズを時計回りに手で巻き上げるか、ローターの動きにて自動的に巻き上げられるものだが、クロノグラフ機構は手巻きのみにて稼働する。ストップウォッチ機能の使用において利便性を感じさせるのが、12時位置のパワーリザーブ表示だ。今回の検証では完全に巻き上げた状態で約54分(53分55.12秒)のリザーブを計ることができた。時計本体のムーブメントは50時間以上のパワーリザーブを保持している。

 時計とクロノグラフ機構のムーブメント機構が切り離されているため、クロノグラフ稼働時に時計を止めることができるところも大きなポイントだ。日常生活のなかでこの状況が発生するかどうかは別として、エル・プリメロの長い歴史のなかで、要望の多かったハック機能の追加は特筆に値するものと言えるだろう。ただ残念なことに、今回のテスト機となった「デファイ エル・プリメロ21」では、この機能の恩恵に預かることは叶わなかった。9時位置に配されている3本のプロペラ状の針で表示されたスモールセコンドでは、秒単位での時刻合わせが可能ではなかったのだ。ただし“普通”のスモールセコンドを備えたスケルトンではない文字盤のバージョンでは、正確な時刻合わせが可能となっている。こちらのモデルでは、ストップセコンドのカウンターは視認性の高い丸形を採用している。

ゼニス「デファイ エル・プリメロ21」をテスト

 測定はタイミングマシーンを使って行われた。完全巻き上げ状態では日差わずかに+0.4秒。24時間経過後では(再度の巻き上げをせずに)日差+2秒であった。クロノグラフが通常輪列とは切り離されているため、クロノグラフ稼働時でも通常輪列側に影響を及ぼすことがなく、結果として安定した数値となった。

エル・プリメロ9004

 エル・プリメロ9004は203個のパーツからなり、オリジナルのエル・プリメロから75個のパーツを減らした構成である。コラムホイールを搭載した特許取得のクロノグラフの設計、独自のスタートメカニズム、やはり特許取得の3つのハートカムを採用したリセット機構を備えている。このリセット機構は、すべての表示が同期してリセットできるというもので、クロノグラフをスタート・ストップさせるのと同様に、機能的プロセスを実現させている。

 同ムーブメントの脱進機は温度変化の影響を受けづらいシリコン製だ。またシリコンは非磁性素材のため、理論上高い耐磁性能を有する。しかし今回この点は、実際に検証することができなかった。強い磁力を放つ蹄鉄型磁石を用いて、1000ガウスの磁場環境に時計を置いてみたところ、測定値に少々の影響が見られた。あきらかに進みはしたが、停止には至らなかった。クロノグラフ機能の方はというと、振り角こそ落ちたものの稼働自体が止まることはなかった。磁場から外れると、しばらくして元の数値に戻ったが、繰り返し磁場環境にさらすと元には戻らず、今回の検証では日差20秒以上の結果となった(※クロノス日本版ではこのようなテストは決して推奨しておりません)。

デファイ エル・プリメロ21


ゼニス「デファイ エル・プリメロ21」のデザイン

 デザインは長いマニュファクチュールとしての歴史を反映するものであるが、ゼニスはエル・プリメロをチタンケースにて展開している。ゼニスの創業者ジョルジュ・ファーブル=ジャコは、自身最初の機械工作にて1880年に作りだした懐中時計を「デフィ(Defi)」と名付けた。この印象的なタイムピースは、1960年代後半になって腕時計のコレクション「デファイ(Defy)」となってよみがえった(つづりの変更はインターナショナルマーケットを意識してのものと推察される)。チャレンジに挑むというデファイの哲学に則り、時計には従来同様に堅牢な外観が与えられ、完成度の高いオーバル形のミドルケースが滑らかに短いラグへつながり、ヘアライン仕上げの表面とべべリング仕上げのエッジ、コンパクトで完璧な操作感のクロノグラフのプッシャーや、堅牢で操作性の良いリュウズ、100mの防水性が備えている。

デファイ エル・プリメロ21

 その大振りなケースサイズにも関わらず、コンパクトに感じさせるケース形状と角度の付いたストラップ装着部分のおかげで、デファイは手首にしっくりとなじむ仕上がりだ。しかし残念ながら、ケースはシャツのカフの下には収まらず、片開きのチタン製フォールディングクラスプのヒンジ部分の跡が手首に残り、カフにもシャープなエッジが当たるところは否めない。ただし、サイドに設けられたプッシャーとレザーまたはラバーストラップのラグは、装着感と使いやすさに貢献していることは確かだ。

「デファイ エル・プリメロ21」の文字盤を大胆に削ぎ落としたスケルトンバージョンは、エル・プリメロ9004の構造・技術・デザインを最高の状態で見せてくれている。スケルトン加工が好みでない顧客向けに、ゼニスはよりクラシックなシルバーカラー文字盤のモデルも展開している。驚くことに今回検証したスケルトンバージョンは、多くの開口部を持つにもかかわらず、視認性自体は高かった。時間表示は、ルミナス加工が施されたファセットの効いた針によって行われている。そして暗闇でも文字盤外周に配されたアワーマーカーは明るく浮かび上がり、時間の読み取りが容易となっている。

 針とマーカーは、エル・プリメロにおける歴史上の特徴をきちんと踏襲している。ふたつの丸形のクロノグラフカウンターも歴史的な流れを汲み、ブルーとグレーに色分けされている。中央のクロノグラフ針の先端にあしらわれたゼニスのスターはブランドの転換期を表したデザインだ。なぜならデファイ以前には、100分の1秒の計測は不可能だったからである。

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