伝統のリマスタリング オーデマ ピゲ 「リマスター01 オーデマ ピゲ クロノグラフ」

FEATURE本誌記事
2020.06.04

2019年発表の「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」に初搭載された、完全新設計の一体型自社製クロノグラフ。その派生キャリバーを搭載する第2弾モデルが、旧来からの時計愛好家を感涙させるスタイリングで登場した。新しい本社ミュージアムの落成に時を合わせて進められてきた、ヘリテージピースのリマスタリングプロジェクト。そこから生み出された「リマスター01」は、単なる復刻版に留まらない、歴史と伝統の継承者だけが持つ風格を備えた快作だ。

リマスター01 オーデマ ピゲ クロノグラフ

リマスター01 オーデマ ピゲ クロノグラフ
1943年に一品製作された「№1533」を再解釈した現代版クロノグラフ。30分積算計のインダイアル内に「4│5」と付記して、サッカーのハーフタイムに相当する45分間計測に対応させている。自動巻き(Cal.4409)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS×18KPG(直径40mm)。2気圧防水。世界限定500本(ブティック限定モデル)。555万円。
星武志:写真 photograph by Takeshi Hoshi (estrellas)
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki


 オーデマ ピゲが腕時計のシリーズ生産を開始したのは1951年のこと。いわゆるリファレンスナンバーが設定されるのはこの年以降のことであり、それまではすべての時計が一品製作されてきた。腕時計クロノグラフに限って言えば、1930〜50年代にかけて製造された総数はわずか307本のみで、39年に始まった第2次世界大戦中に製造本数が激減したことを考慮しても、オーデマ ピゲのヴィンテージクロノグラフは非常に希少な存在と言えよう。

No.1533[Inv.1660]

No.1533[Inv.1660]
1943年に製造された手巻きクロノグラフ。31~34mm程度のサイズが主流だった当時に、直径36mmのバイカラーケースを採用。同じくジュウ渓谷に工房を持っていたバルジューベースのCal.13VZAは、当時のオーデマ ピゲがクロノグラフ用に好んで用いたムーブメントだ。
Cal.4409

Cal.4409
2019年に発表されたCal.4401のバリエーションモデル。オールド調の意匠に合わせてローターデザインが変更された以外、基本設計は同一。テンワの慣性モーメントが大きく、かつ約70時間のロングパワーリザーブと8振動/秒のハイビートを両立させた現代的なスペックを持つ。

 2014年頃から水面下で進められてきた、ジュウ渓谷ル・ブラッシュに残る歴史的建造物のリノベーションプロジェクト。そのハイライトとなる「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」の落成を祝い、同社では1本の腕時計クロノグラフを現代に蘇らせた。ナンバー1533(台帳番号1660)と呼ばれる原型機は、大戦末期の1943年に製造された非常に珍しいモデル。直径36㎜というサイズは、当時の標準的なクロノグラフと比べてやや大ぶりではあるものの、バイカラーに彩られたケースやティアドロップ状のファンシーラグ、やや淡いゴールドカラーのダイアルからは得も言われぬ気品が漂ってくる。300本を超えるミュゼの収蔵品(オーデマ ピゲ・ヘリテージコレクション)の中から、今回のリマスタリングプロジェクトのモチーフを選び出す際には、チームメンバーの全員一致でこのクロノグラフが推されたという。

1875年の創業時から残る社屋に隣接して建てられた「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」。螺旋を描くような先進的な設計は、BIG(ビャルケ・インゲルスグループ)の手によるもの。

 同社が新しいクロノグラフを「リマスター01」と名付けたように、このリミテッドエディションは単なる復刻版に当たらない。最新の自社製一体型クロノグラフである「キャリバー4409」を搭載するケースは直径40㎜に拡大されているが、細く絞ったベゼルなど細部の適切なバランスを突き詰めた結果、原型の1533が持っていた繊細さを巧みに再現している。搭載されるムーブメントが自動巻きのフライバック機構付きという最新スペックからも分かるように、現代的な骨格に歴史的なディテールを潜ませることがリマスタリング作業の本質。アプローチは真逆だが、これも「コード11・59バイ オーデマ ピゲ」で試みられた、歴史と伝統の再構築に他ならない。そしてこのコンセプトは、歴史と伝統のすべてを収蔵する新しいミュゼにも当てはまる。数々の時計だけでなく、19世紀から残る歴史的建造物(創業時の社屋)やジュウ渓谷で培われてきた時計作りの本質的な価値、そしてその現在進行形までを内包した展示物が、先進的なスパイラル状の建物の中に集約されている。またスパイラルの中心部にはふたつの専門アトリエが設けられており、高級時計製造の中でも卓抜した手技が必要とされるグランドコンプリケーションとメティエダールが実際に手掛けられている。昨年開催されて好評を博した企画展「時計以上の何か」。新しいミュゼはその内容を、より純粋に昇華させたものと言えるだろう。

ミュゼのハイライトとなるオーデマ ピゲ・ヘリテージコレクションの展示は、併設されたグランドコンプリケーション工房の前にある。中央に置かれた1899年製の超大作「ユニヴェルセル」を取り囲むように、300本を超える収蔵品が展示されている。

スパイラルの外周部分に設けられたワークベンチ。外光を効率良く取り込むこの場所で、実際に時計師の作業を見ることができる。現代建築とセノグラフィー(舞台美術)の妙を融合させた、実に印象的な光景だ。

Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


2020年 オーデマ ピゲ新作時計

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/47046/
パテック フィリップ&オーデマ ピゲ&ヴァシュロン・コンスタンタンを聴き比べ!!

https://www.webchronos.net/features/46686/