パネライ「ルミノール」/時計にまつわるお名前事典

FEATURE時計にまつわるお名前事典
2020.08.15

どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか? このコラムでは、時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
第16回は、軍用時計を原点とするパネライ「ルミノール」の名前の由来をひもとく。

福田 豊:取材・文 Text by Yutaka Fukuda

ルミノール 1950

ルミノール 1950
1940年代初頭に製造されたとされるルミノールのプロトタイプ。ワイヤーラグを採用していたラジオミールとは異なり、破損しにくい一体化ラグに加え、より防水性能を高めたリュウズプロテクターとリュウズを固定するレバーを持つ。当時の防水性能は200m防水を誇った。手巻き。1万8000振動/時。SS(直径47mm)。


パネライ「ルミノール」

 パネライを代表するのが「ラジオミール」と「ルミノール」のふたつのコレクション。では、その名前の由来はというと、パネライのファンであれば、きっとよくご存じのことだろう。ラジオミールとルミノールは、どちらもパネライの発明した自発光塗料の名前である。

 パネライがそもそもは時計店であったのは、これもパネライのファンであれば、よく知るはずのことだ。最初の店が開かれたのは1850年頃、イタリア・フィレンツェで初の時計店だったという。その後、数度の転居を経て、現在の場所であるサン・ジョバンニ広場に落ち着く。

 特筆すべきは、時計の販売だけでなく、修理部品や精密機器用の工具類を保管する大きな倉庫を所有し、時計の修理部門も併設していたことだ。

 当時、この地域に時計の技術を教える施設はなく、そのためパネライの時計店は実質的にフィレンツェで初の時計学校でもあった。また、スイスから部品の状態で輸入された時計の組み立てはパネライの工房で行うほかなく、そのためトスカーナ地方全域の時計店に供給されるスイス時計のほとんどはパネライで製造されたものだった。

 結果、パネライは時計製造の技術と専門知識を飛躍的に高め、その技術と知識を基に光学・精密機器の製造会社を設立。イタリア海軍のさまざまな装備を手掛けるようになる。

 そして開発されたのが、ラジオミールである。RADIOMIR=ラジオミールはラジウムをベースとする自発光塗料だ。おそらくその当時、ラジオミールは最高軍事機密に属したのだろう。開発年などの詳細は不明。1916年に出願された特許文書に記載されていたことが確認されている。

 実際、ラジオミールの性能は軍事機密に値するほど優れていた。銃の照準器や魚雷発射用の機械式計算機などに用いられたラジオミールは、完全な闇の中でも明るく視認性に富むばかりか、その強力な発光性は昼光でも見えるほどであったという。水中用のコンパスに使用したところ、あまりの明るさゆえに4~5mの深さに潜っていても水面から発見できてしまい任務に支障をきたした、という記録もある。

 そして1936年、イタリア海軍の求めに応じて、ラジオミールをインデックスと針に用いたダイバーズウォッチのプロトタイプを製作。1938年から海軍への納入を開始した時計が「ラジオミール」と名付けられ、第2次世界大戦時にイタリア海軍特殊潜水部隊の活躍を支えた伝説的ミリタリーダイバーズウォッチとなったのだ。

ラジオミール(プロトタイプ)

ラジオミール(プロトタイプ)
1936年製のラジオミールのプロトタイプ。インデックスと針に塗布された自発光塗料がモデル名の由来となったラジオミールである。なお、オリジナルの針は真鍮製だが、これはスティール製に変更されている。手巻き(ロレックスCal.600系)。17石。1万8000振動/時。スティール(直径47mm)。パネライ所蔵。

 自発光塗料の「ラジオミール」は第2次世界大戦後も継続して使用された。しかし重要な改良点もあった。ラジオミールが大量のガンマ線を放射していることに気づき、パネライは新たに自発光塗料を開発した。それがルミノールである。

 LUMINOR=ルミノールはトリチウムをベースとする自発光塗料である。ラジオミールをルミノールに切り替え次第、時計の名前も「ルミノール」に変えられている。しかし、ルミノールが何年に開発されたのか、これもまた詳細はわからない。パネライは1993年に初の民間用モデルを発表するまで、一貫して軍用時計だけを製作してきた。そのためルミノールもまた軍事機密だったのだろうか、正確な開発年などは不明である。ちなみに、第2次世界大戦の終結以前である1940年代初頭の製造と思われるモデルのダイアルに「LUMINOR」と記されたものが残されているのも悩ましいところだ。

 と、まぁ、パネライにはとかく不明なことが多い。しかし、それが魅力でもある。調べても分からない謎のあるところが、本当のミリタリーウォッチであったことの、大きな証左に思えるからだ。それはほかの時計にはない、パネライならではの味わいだ。

 ともあれ、ルミノールは1950年1月26日にローマで特許登録された。そのため、パネライはルミノールを「1950年の誕生」ということにしたようだ。

 そして今年、2020年は、その特許登録から70周年。それを記念し、パネライは今年1年をかけて「ルミノール マリーナ」を全面リニューアルする予定だ。

 なかには70年間の国際保証付きという、驚きのモデルも登場している。しかしそれも含めて、発表されたのはまだ半分ほど。この記事がアップされたのが8月中旬だから、今年は残すところ4カ月半。2020年9月9日~13日にはウォッチズ&ワンダーズ上海が開催され、そこにパネライも出展することが発表されているから、まだまだ素晴らしい新作が登場しそう。それを期待して待ちたい。

ルミノール マリーナ カーボテックTM-44MM(PAM1118)

ルミノール マリーナ カーボテック™-44MM(PAM1118)
1950年1月26日にイタリア・ローマでパネライによって特許登録された自発光塗料「ルミノール」の誕生から70年を祝して2020年に発表されたスペシャルエディションのひとつ。この「ルミノール マリーナ カーボテック™-44MM」に加え、「ルミノール マリーナ DMLS-44MM」「ルミノール マリーナ フィブラテック™-44MM」のブティック限定モデルには、いずれも70年の国際保証が付く。なお、写真のモデルがケースに採用するカーボテック™は、カーボンファイバーシートを繊維の向きが交互になるように1mmの厚さの中に7層重ね、高圧・高温下で圧着し、先端ポリマーで固めた素材。軽く、応力と腐食に耐性を持つ。自動巻き(Cal.P.9010)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。カーボテック™(直径44mm、厚さ15.65mm)。300m防水。パネライブティック世界限定270本。176万円(税別)。


Contact info: オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110


福田 豊/ふくだ・ゆたか
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。
くまモン


2020年 パネライの新作時計

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/44695/
パネライCEOが語る、2020年新作と現在のデジタルビジネス

https://www.webchronos.net/features/48110/