水のきらめきを蒔絵仕上げで表現したカシオ最新オシアナスの"粋"

FEATUREその他
2021.07.15
PR:CASIO

薄型化を追求したケースにワールドタイム表示機能を備え、ビジネスパーソンからの厚い支持を得るオシアナス。なかでも「伝統と革新の融合」をテーマとしたシリーズは、日本の伝統工芸をデザインに取り入れながらも同ブランドらしい端正な表情を放ち、2018年の登場以来、好評を博している。その最新作に選ばれた技法が「蒔絵」。漆器に金粉や銀粉を施して絵柄や文様を描く日本古来の技を時計に用いて“水のきらめき”を表現したモデルは、単に伝統美を魅せるだけではなく、カシオのチャレンジングな姿勢と高い技術力をも示している。

三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
竹石祐三:取材・文 Text by Yuzo Takeishi


伝統技を革新技術で昇華させた新表現

「伝統と革新の融合」をテーマに掲げたシリーズは、2018年に江戸切子、2020年には阿波藍の技法を取り入れ、落ち着いた佇まいに実用的な機能を内包するオシアナスに新たな価値を与えるとともに、ドメスティックブランドにふさわしいルックスを作り上げた。これに続く第3弾として発売されたのが、蒔絵技法を用いた「オシアナス マンタ OCW-S5000ME」だ。

下出祐太郎

「OCW-S5000ME」の制作・監修を行ったのは京蒔絵師の下出祐太郎氏。京都で100年以上続く蒔絵工房・下出蒔絵司所の3代目で、即位礼や大嘗祭で使われる神祇調度蒔絵や御神宝の制作をはじめ、文化財の保存修理・復元なども手掛ける。その傍ら京都産業大学の名誉教授も務め、蒔絵技術の継承にも尽力。

 制作・監修を務めたのは、京蒔絵師の下出祐太郎氏。1912年創業の蒔絵工房・下出蒔絵司所の3代目で、伝統技法を用いた作品制作をはじめ、文化財の修理・修復も手掛ける人物だ。このシリーズを進めるにあたり、カシオではオシアナスと親和性のある日本の伝統文化を探し続けてきた。蒔絵もそのひとつだったが、当初は蒔絵に対して「金粉を使用した作品」のイメージを持っており、オシアナスの世界にはマッチしにくいと考えていたという。そんな中で出会った下出氏は「蒔絵の技術を継承し、進化させていきたい」というマインドを持ち合わせており、先進的な思考を持った彼の作品であれば同シリーズが掲げるテーマに合致すると判断。一方の下出氏もカシオの考えに共感したことで、両者のコラボレーションによる、伝統と革新を融合させた時計づくりがスタートした。

佐藤貴康

「伝統と革新の融合」をテーマとした一連の商品において企画を担当するカシオ計算機の佐藤貴康氏。オシアナスにふさわしい日本の伝統文化を見つけ出すことはもちろん、「このテーマに共感していただける方と巡り会えることも、シリーズを展開するうえでのポイント」と、コラボレーション相手の熱量も重要であると説く。
オシアナス マンタ OCW-S5000ME

デザインは京都迎賓館にある「悠久のささやき」がモチーフ。プラチナ粉の蒔絵によって“水のきらめき”を表現し、オシアナスの由来でもある海との親和性も持たせた。このモデルはシリーズで初めてベゼルとダイアルの両方に伝統技法を採用し、繊細なグラデーションが存分に堪能できる贅沢なデザインに。

 新モデルのデザインコンセプトは「蒔きぼかし抜描波文(ぬきがきはもん)」。下出氏の代表作である京都迎賓館の飾台「悠久のささやき」にインスパイアされたデザインで、一般的な蒔絵で使用される金粉や銀粉ではなく、腐食しにくいプラチナ粉を用いて水のきらめきを表現する内容だ。しかも、シリーズ第1作となった江戸切子のモデルではベゼル、第2作の阿波藍ではダイアルのみに伝統技法を施していたが、この最新モデルでは彼の作品世界をより魅力的に表すため、サファイアクリスタルベゼルとダイアルの両方に蒔絵を採用。より広いキャンバスの上で繊細な表現が繰り広げられることになった。

 通常、蒔絵は漆器の表面に漆で絵柄や文様を描き、それが乾かないうちに金粉や銀粉を蒔く“粉入れ”を行ってから定着させるのが一般的だ。しかし、腕時計は日常的に着用するプロダクトであると考えれば、パーツの表面に粉入れを施すのは現実的ではない。そこでこのモデルでは、加工前のダイアルとベゼルの裏面に透明塗料で波紋模様を塗布。その後にプラチナ粉を蒔き、透明塗料と黒色塗料を重ねて封じ込める工程を踏んでいる。シンプルな制作プロセスのようにも感じられるが、直径わずか42.3mmのキャンバスに繊細な意匠を施し、しかも高いクオリティを実現するためには、当然のことながら高度な技術とセンスが要求される。

オシアナス マンタ OCW-S5000ME

表に漆を塗って粉入れする通常の蒔絵技法とは異なり、このモデルではダイアルとベゼルの裏面に蒔絵を施すが手法が採られている。まずプラチナ粉が付く部分に透明塗料を塗布し、そこに下出氏が手作業でプラチナ粉を蒔く。それが乾いた後に透明塗料を重ね、最後に黒色塗料で締めることで輝きを生み出している。

 

オシアナス マンタ OCW-S5000ME

1500本限定の「OCW-S5000ME」(写真左)と併せて展開される300本限定の「OCW-S5000MES」(写真右)は、金粉で線状の意匠を施したスペシャル仕様。制作においてはプラチナ粉と金粉を別に蒔く必要があり、倍の作業工程が必要になったという。

 まずは、丸粉や平目粉といった多彩な粉体のなかから、完成後にどの角度から見てもきらめきが感じられる大きさと形状のプラチナ粉を選定。とはいえ制作の初期段階では、プラチナ粉を蒔いて黒色塗料で締めただけでは輝きが弱かったため、さまざまな工程を取り入れての試行錯誤を繰り返し、最良の手法を導き出したという。また蒔絵の表現についても、あえて粉入れをしない部分を設ける“抜描”の技法を組み合わせ、そこにわずか数粒のプラチナ粉を蒔くことで情緒を感じさせる表情に仕上げた。これこそ、下出氏とカシオが有する技術とセンスの賜物と言えよう。

 しかも今回のモデルは、蒔絵を封じ込めるための特殊な工程が必要であったため、本作の製造を担う山形カシオに下出氏が足を運び、「OCW-S5000ME」と一部店舗のみで販売される「OCW-S5000MES」の計1800本を超える時計すべてに自ら蒔絵を施したというから、このシリーズに対する力の入れようがうかがえるだろう。

蒔絵ダイアル

蒔絵をパーツの裏面に施すのはダイアルも同じ。インダイアルだけで受光できるソーラー技術が確立したからこそ、文字盤に蒔絵を施すことが可能になったという。

 一方で、伝統技法を駆使した時計としての完成度を追求するのであれば、なぜ漆を使わなかったのかという疑問も湧く。しかし、天然の染料である漆は経年によって色が変わるため、そもそも漆を使うことは現実的ではなかったようだ。それよりも重視したのは、プラチナ蒔絵の輝きを長く美しくキープするために最適な材料を用いること。商品企画を担当する佐藤貴康氏は次のように説明する。「今美しいものが、変わらず美しいままであること。それを実現するために使えるものは、品質的にも限られてくる。そこに、伝統だけではない革新が必要になってくる」。

 こうして完成した「OCW-S5000ME」は、漆黒のダイアルとベゼルに浮かぶプラチナ蒔絵が幻想的な雰囲気を放ち、手作業で生み出される蒔絵の絵柄が1本1本微妙に異なるプレミアムな要素も備えている。この伝統技法を引き立たせるために、アイコニックなオシアナスブルーを秒針とロゴマークのみに抑えたこともカシオにとっては大きなチャレンジだったというが、そのルックスはオシアナスらしさを失っていないばかりか、むしろ革新を止めないオシアナスにふさわしい仕上がりとなった。