世界屈指の影響力を持つ時計ジャーナリスト、ギズベルト・L・ブルーナーが選び抜いた2021年発表の時計ベスト5

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2021.12.18

日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2021年発表時計からベスト5を選んでもらうこの企画。
ヨーロッパを中心に、世界の時計業界に大きな影響力を持つ、最も信頼の置けるご意見番と言っても過言ではないドイツ人時計ジャーナリスト、ギズベルト・L・ブルーナー。
彼が熟考の末に選んだ5本は、今後、各時計メーカーやブランドが照準を合わせるべき要素を持った、まさに“今”を象徴する時計たちだ。

ベスト5


ショパール「アルパイン イーグル ケイデンス 8HF」

 ショパールはこのモデルでアクセルペダルを踏み込んできたような印象だ。自社キャリバーChopard 01.12-Cは毎秒8振動(4Hz)の倍をいく毎秒16振動、つまり5万7600振動/時でありながら、同社の従来のムーブメントと比べてもほとんどそれ以上のエネルギーを消費しない。公式クロノメーターの認定を受けたこのムーブメントのパーツ総数は210点、パワーリザーブは約60時間。ブレスレットとともにグレード5のチタンを使用したケースの直径は41mm、裏側はトランスパレント仕様で100m防水というのも頼もしい。世界250本限定で再販はないとのことだ。

アルパイン イーグル ケイデンス 8HF

ショパール「アルパイン イーグル ケイデンス 8HF」
C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.Chopard 01.12-C)。28石。5万7600振動/時。パワーリザーブ約60時間。グレード5 Tiケース(直径41mm、厚さ9.75mm)。100m防水。世界限定250本。239万8000円(税込み)。(問)ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922


ラング&ハイネ「ヘクトール」

 今や手巻きムーブメントが主流ではないのは疑いようもなくなってしまった。たいていの者は毎日リュウズを巻く手間を嫌うものだが、しかしながら手巻きを愛する者も少数派ながらやはり存在する。そんな人々が待ってましたとばかりに歓喜するのがこのモデルだ。直径40mmのステンレススティール製ケースの中で息づくのは自社で開発・製造したキャリバーLANG & HEYNE 33.2。パワーリザーブは約48時間、振動数は2万1600振動/時(6振動/秒、3Hz)。ケース裏側はもちろんトランスパレント仕様で、5気圧防水になっている。文字盤はブルー、グリーン、グレーの3色で展開され、各色33本の限定品だ。

ヘクトール

ラング&ハイネ「ヘクトール」
輪列はARCAP®製。ARCAP®(ニッケル、銅、コバルト、亜鉛からなる合金)は鉄を含まないため磁場の影響を受けにくく、腐食や温度変化などに対して高い耐性を持つ。手巻き(Cal.LANG & HEYNE 33.2)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.95mm)。5気圧防水。各色33本合計99本限定。275万円(税込み)。(問)ノーブル スタイリング Tel.03-6277-1604


オリス「アクイスデイト キャリバー400」

 10年保証、つまり1回目のメンテナンスは購入から10年後にすることもでき、パワーリザーブは約5日間。ブレスレットとともにステンレススティール製のケース裏側はトランスパレント仕様にもかかわらず、防水性は30気圧、そしてムーブメントは自社開発の自動巻きキャリバー400。このムーブメントは横並びにふたつの香箱を備えた完全自社製だ。パーツ総数150点のうち、ストップセコンドや日付表示の構成部品などを含めた30点以上が鉄を含まない素材を使用。ガンギ車とアンクルは完全に磁力の影響を受けないシリコン製を採用している。

アクイスデイト キャリバー400

オリス「アクイスデイト キャリバー400」
自動巻き(Cal.オリス 400)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径43.50mm)。30気圧防水。40万7000円(税別)。(問)オリスジャパン Tel.03-6260-6876


パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF マイクロローター」

 飛行家であり小説家でもあったアントワーヌ・ド・サンテグジュペリ曰く、「完璧となるのは加えるべきものがなくなった時ではなく、削るべきものが何もなくなった時」。それが体現されているのが、手作業でモルタージュ装飾を施したベゼルを備えた丸型ケースの正統派とも言うべきこのモデルだ。ケースと同じく裏側から見られるマイクロローターもプラチナ製で、この自社製自動巻きキャリバーPF703の厚さはわずか3mm。ケースの厚さは7.8mmと手首の上で主張し過ぎない仕上がりだ。表示は2針に日付のみというシンプルさがギヨシェ彫りの文字盤を引き立てている。

トンダ PF マイクロローター

パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF マイクロローター」
プラチナ製ベゼル。自動巻き(Cal.PF703)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径40mm、厚さ7.8mm)。100m防水。265万1000円(税込み)。(問)パルミジャーニ・フルリエ Tel.03-5413-5745


チューダー「ブラックベイ セラミック」

 搭載される自動巻きムーブメントCal.MT5602-1Uは当然ながら自社製造で、C.O.S.C.(スイス公式クロノメーター検定機関)とMETAS(スイス連邦計量・認定局)によるふたつの検査で認可されているのは精度フリークにもうれしいところだろう。セラミックス製ケースは直径41mmで10気圧防水、逆回転防止ベゼルとねじ込み式リュウズ、裏蓋は表面をPVD加工したステンレススティール製。パワーリザーブ約70時間のムーブメントはケーシング前にC.O.S.C.で検査され、ケーシング後にMETASのマスター クロノメーターとして合格したものだけが出荷される。少々のことでは精度に影響が出ない1万5000ガウスもの優れた耐磁性があるのも頼もしい。

ブラックベイ セラミック

チューダー「ブラックベイ セラミック」
自動巻き(Cal.MT5602-1U)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックセラミックス×SSケース(直径41mm)。200m防水。5年間の国際保証。レザーとラバーライニングによるハイブリッドストラップ+ブラックファブリックストラップ(クリーム色のライン入り)。53万9000円(税込み)。(問)日本ロレックス/チューダー Tel.0120-929-570


ギズベルト・L・ブルーナーのコメント

 2021年の腕時計ベスト5を選ぶ? それは簡単な話ではない。新型コロナウイルスが引き起こしたクライシスは、昨年に続いて2年目も新作群のスペクトラムにとてつもなく大きな影響を及ぼした。

 5本を選定するにあたってまず意識せざるを得なかったのは、欧州時計産業界は新型コロナウイルスという強烈なシグナルにより売り上げ激減に陥ったことである。続いて考慮しなくてはならなかったのは、アップルやガーミンなどのスマートウォッチの躍進が自社一貫製造システムを持たないエタブリスール・メーカーを強力に圧迫したことだ。

 さらには今やメーカーが容認保証する中古市場が、成長の一途をたどる中で新品販売も共存してゆかねばならない状況にあることも見過ごせない。もっとも新品を売る店で中古品が販売される場合、それがどれくらいの本数から本来望ましい売り上げに対しての妨げになるかは明確に数量化することはできないだろう。

 したがって、スイスおよび隣国ドイツのメーカーは、購買力のある顧客を抱える販売店に、魅力を感じさせるだけの提案をして引き付ける以外に選択肢はないのだ。公式機関の検定に合格していようがいまいが、高精度であるという特徴はクォーツ時計が当たり前の時代においては捨て置けないほどの役割を果たしていない。

 ノーチラスやオーヴァーシーズ、ロイヤル オークが成功を収める一方であることに直面すると、現在の多くのメーカーにとってスポーティーエレガンスは今後照準を合わせる筆頭の要素だろう。

 すでにこの数年で、クロノメーターとしてのラグジュアリー感は貴金属ケースであってこそ、という縛りがなくなっている。ステンレススティール、チタン、セラミックスは耐久性の高さでは定評があり、時計産業でも高級商品に相当使用されるほどに格上げされた。

 いずれにせよ、さまざまなライフスタイルのもとに日常的に腕にする時計としては、こうした素材は最適だろう。時計市場に表れ出した影響のひとつとして見過ごせないのは、毎年早春に欧州各地で開催されていた見本市がパンデミックにより軒並み中止となったことだ。その筆頭に上がるのはバーゼルワールドで、2022年も開催中止が決定している。

 このままいくと、世界中を牽引してきたこの大型の新作発表展示会は、いずれ跡形もなく消えてしまうのではないかという懸念もあるのだ。それに対して主催者たちは、未来を見据えたコンセプトを立てるという視点に欠けている。近い将来、見本市においてはジュネーブで開催されるウォッチズ&ワンダースがバーゼルワールドから役割を引き継ぐかたちで最有力の存在となるだろう。

 今やバーゼルワールドからは、リシュモン グループ傘下ブランドに並んで、ビッグネームのパテック フィリップ、ロレックスとチューダー、そしてシャネルとショパールも撤退している。なぜこんなことばかり書くかというと、理由はまったくもって単純そのもので、腕時計に出合うにはもはやモニターの画面を通せばあらゆる観点から到達可能なのだ。

 しかし購入を決心するに至らしめる実体験というのは、最終的には試着することだろう。それ故に見本市や個々のブランドの新作発表会、販売実店舗の存在は切り捨てられるようなものではないのだ。

 それはさておき、話題を時計自体に関することに移そう。ここで話したいのは製品の保証についてだ。長らくスタンダードだった2年という保証期間は、もはや時代に完璧に合っていないと言える。保証期間を延ばすようになったメーカーはどんどん増加中だ。これは良いことではないだろうか。製品の出来に自信が持てるなら、法で定められた基本期間より長く設定することも可能なのだ。

 その良い例としてはオリスが挙げられる。どのコンツェルンにも属さず、独立経営を続けるオリスは、自社製新型キャリバー400系の精度安定性と品質を鑑みて、保証期間を10年とした。これは誰もが脱帽する快挙にほかならないのだ。


ギズベルト・L・ブルーナーのプロフィール

ギズベルト・L・ブルーナーのプロフィール

1947年、ドイツ生まれ。「UHRENKOSMOS」(https://www.uhrenkosmos.com/)の共同創立者兼共同所有者。1964年から時計の収集を開始。ミュンヘン・ルートヴィヒ=マクシミリアン大学で法律、心理学、教育学を学び、72年と77年に学位を取得。81年より『アルテ・ウーレン』編集者。『Wristwatches』の3人の著者のうちのひとり。20冊以上の書籍を出版しており、『クロノスドイツ版』をはじめ、『クロノス日本版』など、世界のさまざまな雑誌に寄稿している。


通常の自動巻きムーブの2倍の振動数で究極の精度。ショパール「アルパインイーグル ケイデンス 8HF」

https://www.webchronos.net/news/70086/
スポーツとドレスを併せ持つパルミジャーニ・フルリエの新作「トンダ PF」コレクションを披露

https://www.webchronos.net/news/69432/
ラング&ハイネ、初めてのラグジュアリー・スポーツ「HEKTOR(ヘクトール)」

https://www.webchronos.net/news/70598/