着けて分かった磁器文字盤の魅力。セイコー プレザージュの「有田焼ダイヤル」SARW049は大人が楽しむべき時計だ

FEATUREインプレッション
2022.04.28

2019年に登場したセイコー「プレザージュ SARW049」はダイアルに、日本の伝統技術である有田焼を採用したモデル。国産初の腕時計セイコー「ローレル」の意匠を採用した、シンプルで涼しげな表情だが、一体、どんな使用感なのだろうか。日常はクロノグラフを愛用する筆者にとって、人生初となる有田焼腕時計との約1カ月間のお付き合いのなかでの気付きをお伝えしたい。


小泉庸子:文 Text by Yoko Koizumi
2022年4月28日掲載記事

プレザージュ SARW049

セイコー「プレザージュ SARW049」
自動巻き(Cal.6R27)。29石。2万1600振動/時。有田焼ダイアル。SS(直径40.6mm、厚さ14.1mm)。10気圧防水。22万円(税込み)。


有田焼400年とセイコー140年が歴史の融合

「プレザージュ」は2011年に誕生したシリーズで、プレザージュは名誉、品格、品位という意味を持つ。

 1881年創業のセイコーには、63年目のグランドセイコー、60年目のセイコースポーツマチック・ファイブ、49年目のクレドールといったベテランコレクションが居並ぶが、そのなかにあって最も若いブランドである。

 ブランドコンセプトは「100年を超える腕時計づくりの伝統を継承し、世界に向けて日本の美意識を発信する」ことであり、2016年からは「“日本の美意識”を発信するグローバルブランド」として、モデルが再構築されている。

 その“日本の美意識”を表現する手法として、日本の伝統工芸を積極的に採用している。琺瑯、漆、七宝に続く第4弾として19年9月に登場したのが「有田焼」である。

 ここで有田焼をおさらい。

 有田焼とは佐賀県有田町とその周辺地域で製造される磁器の総称で、名称として確立したのは明治以降のこと。江戸時代は伊万里焼や肥前焼きと呼ばれていた。17世紀初頭、有田の街に磁器の原料となる陶石が見つかり、日本初となる磁器が焼かれた地となった。以来400年以上にわたり、伝統が継承されている。

有田焼 窯

有田焼ダイアルでは1300℃で焼成したのち、さらに2回の焼き上げを行う。特に最後の仕上げ焼きによって、断面がスムーズになり、磁器特有の質感と強度を得る。

 そして今回、プレザージュのダイアル製作を担当したのが創業1830年の老舗「しん窯」である。同社の歴史でも、有田焼としてもダイアル製作は初の試みだったという。ゆえに完成まで相当な試行錯誤があったようだが、それはまた別な機会に。


なめらか、は大人だから楽しめる

 まずはメインイベント、その有田焼ダイアルからレビューしていこう。初めて見たのは室内のLEDライトの下。真正面から見た際は正直なところ、普通の白いダイアル。だが、少し斜めにすると、有田焼の特徴である透明感と艶っぽさ、独自のわずかに感じられる青色が現われてくる。

 9時位置のパワーリザーブと6時位置のカレンダー部分は滑らかな傾斜により段差がつけられ、一体で成型される。段差といっても1mmに満たず、ここに3回釉薬を塗布して焼くという。ふつうは段差に釉薬が溜まりそうなものだが、当然ながら“平ら”である。実際のところ、釉薬をかけたのか? 焼いたのか? と疑いたくなるほどの精緻さがある。とくに傾斜部分のなめらかさは秀逸で、光の角度を変えながら眺めると、焼き物としての丸みを帯びた光の線が動く美しさを体感できる。

有田焼ダイアル

 しかしこれは一般的な時計とは真逆の表現といえる。

 一般的な時計を見ると、各パーツはたとえ丸い形状であってもエッジは「ピシッ!」が基本である。はめ込みも「ピシッ!」。エッジが際立っていることが加工における褒め言葉だが、プレザージュにあるのは“なめらか”。金属がもつ力強さや精悍さばかりが良さじゃない。こうしたラインを魅力に感じるのは、魅力を見出せるのは、大人だからこその愉しみといっていいだろう。

 子どものころはスーパーボールのような反応が早いおもちゃの方が楽しいが、徐々にスライムや低反発ウレタンの「にゅる~」が心地よくなっていくのと同じと考えていただいてもいいのではないか。ん、例えが違うか?

 そして白の色合いだが、ほのかに青みがかった白となっている。

 これは柞灰釉(いすばいゆう)という釉薬の効果だ。イスノキ(柞の木/マンサク科の常緑高木)を焼いた灰を原料とした釉薬で、微量の鉄分を含む。江戸時代に生産されていた古伊万里にも使用されている伝統的な釉薬で、わずかに色を付けながら柔らかさ、しっとりとした風合いが特徴だ。

 太陽光の下はとりわけ美しい。ギラギラと反射するのではない“なめらかな輝き”。何度も書こう、大人は楽しい、大人でうれしい。