オリエントスター 神秘の情景を映し出す日本のモダンクラシック

FEATURE本誌記事
2022.10.04

2021年、誕生から70年の節目を迎えたオリエントスターは、「輝ける星」と呼ばれる機械式時計を目指して時計製作を続けるジャパンブランドだ。その最新作で目を引くのは、コンテンポラリーコレクションに加わった新作のスケルトンのモダンなデザイン。そして、メカニカルムーンフェイズに採用された、クラシックで美しい白蝶貝製の文字盤。スケルトンとメカニカルムーンフェイズ、その作り込まれたディテールに注目する。

コンテンポラリーコレクション スケルトン

オリエントスター「コンテンポラリーコレクション スケルトン」
まったく新しいデザインコンセプトを取り入れた本作。これまでのスケルトンモデルから一変、名前の通り“現代的”な印象となった。自動巻き(Cal.F8B61)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径39mm、厚さ10.8mm)。5気圧防水。34万1000円(税込み)。2022年11月10日発売。
江藤義典:写真 Photographs by Yoshinori Eto
土井康希(本誌):文 Edited & Text by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]


「スケルトン」と「メカニカルムーンフェイズ」の最新作

コンテンポラリーコレクション スケルトン

スケルトンムーブメントで、深宇宙の奥行きを感じさせる新生「スケルトン」。裏蓋はトランスパレント仕様だ。受け表面の波目模様は、一般的なゴム砥石ではなく切削によって入れられるため、特に寒色系の強い光が当たると虹色に輝く。

 国産機械式時計の魅力を絶えず提案し続けるオリエントスター。数々の名作を手掛けてきた同ブランドだが、ムーブメント、外装ともに目覚ましい進化を遂げたのは、2017年にセイコーエプソンとブランド統合を行って以降だろう。今回紹介するのは、長年親しまれる「スケルトン」と、新たなアイコンの「メカニカルムーンフェイズ」の最新作。価格以上の手間を掛けた精巧な作り込みは、他ブランドには見られない強力な武器である。

 コンテンポラリーコレクションに加わったスケルトンは、1991年に発売された「モンビジュ」の系譜を継ぎながらも、これまでのスケルトンモデルとは異なるコンセプトで登場した。時計全体で “深宇宙” を表現したという本作は、新設計のケースとH型のメタルブレスレットを採用し、フォーマルにもカジュアルにも寄りすぎない、オンオフどちらにもなじむスタイルを体現している。シンプルでありながら、鏡面と筋目仕上げを使い分けてエッジを出す様は現代的。厚さ10.8mmのケースとピッチの短いブレスレットが相まって、着用時に重量バランスの良さが感じられる。

コンテンポラリーコレクション スケルトン

キャリバーF8B61で最も目を引くシリコン製ガンギ車は、文字盤側から観察できる。接着剤不要で軸に固定できる構造、バネ性を持たせた形状、青い表面色という3つの特許技術を取得する。

コンテンポラリーコレクション スケルトン

地板にネジ留めされたプレートには、脚を立てて植えられた「OS」ロゴが輝く。

 搭載するのはシリコン製の “青い” ガンギ車を使った新型キャリバーF8B61。このガンギ車は天の川銀河を、アンクル受けは彗星を、ムーブメント全体で宇宙空間を表現している。2021年発表のキャリバーF8B62との違いは、各パーツのメッキ色がグレーになったこと。変更点はわずかだが、これによりグレーを基調としたオープンな文字盤とムーブメントがよりなじみ、表面の光沢感が増したことで外装との一体感が生まれた。今までのスケルトンモデルでは見られなかった表情だ。

 一方でメカニカルムーンフェイズの新作は、秋田県に位置する田沢湖の夜空に月が浮かんだ情景に着想を得たという2モデル。グラデーション塗装を施した白蝶貝製の文字盤で田沢湖の湖面を、そして湖面に映る満月をムーンフェイズで表現している。見るべきは文字盤の作り込みだ。厚さ0.1〜0.2mmに加工した白蝶貝の裏面の塗装に加え、表面にもグラデーション塗装を行い、文字盤のベースに貼り付けることで、この深みのある独特な表情が生まれる。グレーの文字盤リングと半円のパワーリザーブ表示は別体で、割れやすい白蝶貝に穴を開けて脚を立てている。

メカニカルムーンフェイズ

(左)コレクションの象徴であるムーンフェイズ。その周りを囲むカレンダーリングはダイヤモンドカットによる面取りと、表面には挽き目加工が施され、細部まで手を抜かない姿勢がうかがえる。
(右)文字盤リングの内側には「OS」ロゴをかたどったパターンが見られる。クリア塗料のパッド印刷によるもので、光の加減ではっきり見えたり隠れたり、表情を変える。

 またローマ数字は、わずかにサイズの異なるパッド印刷を複数回重ねることで、周囲にインクが滲まず美しい山型に盛られる。ここはやはり、セイコーエプソンが持つ高級機向けの技術がオリエントにも導入された、ひとつの好例である。また約50時間の持続時間を持つキャリバーF7M65を搭載。12時位置にパワーリザーブ表示を、6時位置にムーンフェイズと指針式の日付表示を同軸に配置し、左右対称のすっきりとしたフェイスに仕上がっている。

 加えて、クラシックな雰囲気を後押しするのは峰カットのリーフ針。針の左右で鏡面と筋目仕上げに分かれているため、実際の厚みよりも立体感が伝わる。分・秒針の先端が曲げられている点も高級機にふさわしい仕上げである。

 オリエントスターらしい親しみやすさと、セイコーエプソンの培ってきた技術力が結実し、神秘の情景を時計へ映し出す、新たな表現を実現したのだ。

メカニカルムーンフェイズ

オリエントスター「メカニカルムーンフェイズ」
田沢湖に浮かぶ月を表現した2モデル。左は春の「新緑」をイメージした青緑色の文字盤、右は秋の「晩秋」をイメージし、白蝶貝を活かしたグレーに近い色調だ。それぞれ交換用のメタルブレスレットが付属する。自動巻き(Cal.F7M65)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径41mm、厚さ13.8mm)。5気圧防水。(左)オリエントスター公式オンラインストア限定モデル、(右)国内限定350本。各21万4500円(税込み)。2022年10月20日発売。



Contact info: オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380


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