ルイ・ヴィトン「タンブール」20年の旅路とそのハイライトに見るウォッチメイキングへの情熱

FEATURE本誌記事
2022.10.07

2002年に発表された「タンブール」は今年、発表から20年を迎えた。当初、ベーシックだったコレクションは、ユニークで良質なものに変容した。その歩みを振り返る。

タンブール トゥエンティ

タンブール トゥエンティ
タンブール20周年記念モデルは、「LV277」の復刻版だ。とはいえ、外装のクォリティはさらに高まり、インターチェンジャブルストラップに変更された。自動巻き(Cal.LV277、エル・プリメロベース)。31石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径41.5mm、厚さ13.20mm)。100m防水。完売。
Photographs by courtesy of Louis Vuitton
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]


発表から20年を迎えたルイ・ヴィトン「タンブール」

 2002年にウォッチメイキングに本格参入を果たしたルイ・ヴィトン。記念すべき第1作が、ドラムを模したケースを持つ「タンブール」だった。そのデザインは1540年の携帯時計「ドラムクロック」に由来するもの。持ち運び可能なドラムクロックは、機械式時計の黎明期に生まれた「旅時計」であり、旅をルーツに持つルイ・ヴィトンがオマージュの対象に選んだのは当然だろう。

タンブール LV277 クロノグラフ

2003年発表の「タンブール LV277 クロノグラフ」。

 ファーストモデルが採用したのは、GMT機構付き。続いてリリースされたのは、エル・プリメロを載せた「タンブール LV277 クロノグラフ」だった。そんなルイ・ヴィトンが明確に個性を打ち出したのは、09年の「タンブール スピン・タイム」からである。ユニークさに着目した同社は、翌年に「タンブール ミステリューズ」を発表し、11年には「タンブール ミニッツ・リピーター」を完成させた。スイスでも屈指の高級時計工房だったラ・ファブリク・デュ・タン(現ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン=LFTLV)と、文字盤工房のレマン・カドランの買収は、ルイ・ヴィトンの時計作りを大きく飛躍させたのである。

タンブール ミニッツ・リピーター

2011年発表の「タンブール ミニッツ・リピーター」。

 当時の関係者が語った通り、同社はルイ・ヴィトンというブランド名に頼らず、時計そのものの完成度で時計業界に挑もうとした。同社が、独自の個性を深掘りする一方、急ピッチで質の改善に取り組んだのは当然だろう。まず取り組んだのは、一部ムーブメントと文字盤の内製、そしてサプライヤーの変更とてこ入れだった。幸いにも、ラ・ファブリク・デュ・タンの創業者であるミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニは、時計業界に優れた知己を持っていた。彼らはそのつながりを使って、ルイ・ヴィトンのために最良のサプライヤーを揃えたのだった。ナバスは筆者にこう語った。「ルイ・ヴィトンが完全なマニュファクチュールになる必要はない。なぜなら、私たちはベストパートナーを知っているからだ」。

 その結果が、10年代半ば以降のタンブールコレクションだ。鏡面仕上げのケースは面の歪みが小さくなり、カラフルな針も、以前より鮮やかになったのである。タンブールが、ルイ・ヴィトンのファン以外にも訴求するようになったのは、この頃からだろう。

タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ

2017年発表の「タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ」。

 ユニークさと質の追求は、17年の「タンブール ムーン」に結実した。このモデルで目指したのは、タンブールらしさを損ねることなく、新たなアイデンティティーを確立させることだった。対して、ケースの設計を手掛けるLFTLVは側面を張り出すのではなく、内側に湾曲させることで、ユニークな造形を生み出すことに成功した。側面をコンケーブ状に仕上げたケースはおそらく、これが初ではなかったか。しかも、複雑な造形にもかかわらず、鏡面の磨きは完全である。

 以降のタンブール コレクションは、ユニークさと質に、一層の磨きをかけるようになった。ジュネーブ・シール付きの「ポワンソン・ド・ジュネーヴ」は、タンブールのデザインと、高級時計の仕上げを融合させた試みである。また、アイコンのひとつとなった「スピン・タイム」は、毎年のように新しい試みを加えるようになった。キューブを中空に浮かすだけでなく、発光させる試みは類を見ない。

 タンブールとともに、大きな飛躍を遂げたルイ・ヴィトンのウォッチメイキング。かつて名だたる時計メーカーに肩を並べようとした同社は、20年を経て、他社が決して真似できない時計メーカーへと変貌を遂げたのである。その歩みは唯一無二だ。


タンブールの “旅路” 【1988 - 2021】

ルイ・ヴィトン LV1

[1988]ルイ・ヴィトン LV1

 ルイ・ヴィトン初の腕時計が、1988年の「ルイ・ヴィトン LV1」である。デザインは建築家のガエ・アウレンティ(!)、ムーブメント開発はIWCだった。本格的に時計部門に参入して初めて製作したのが2002年の初代「タンブール」。直径39.5mmのケースに、ETA2893を搭載していた。

初代「タンブール」自動巻きGMT

[2002]初代「タンブール」自動巻きGMT
タンブール LV277 クロノグラフ

[2003]タンブール LV277 クロノグラフ

 続いて製造された「タンブール LV277 クロノグラフ」は、エル・プリメロを搭載した野心作。現在ではコレクターズアイテムだ。同社の在り方を決定付けたのは09年の「タンブール スピン・タイム」。回転するキューブが時を示す、新世代のジャンピングアワーだった。

タンブール スピン・タイム

[2009]タンブール スピン・タイム
タンブール ミニッツ・リピーター

[2011]タンブール ミニッツ・リピーター

 その延長にあるのが「タンブール ミニッツ・リピーター」。ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン(LFTLV)が開発した本作は、リピーターに加えて、GMTと昼夜表示、そして約100時間のパワーリザーブを誇った。表示のユニークさを強調したのが13年の「タンブール ツインクロノ」である。ルイ・ヴィトン カップの30周年を記念した本作は、3つのインダイアルをひとつのプッシュボタンで操作した。

タンブール ツインクロノ

[2013]タンブール ツインクロノ

 タンブール ムーンケースを採用した大作が「タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ」と「タンブール ムーン ミステリューズ フライング トゥールビヨン」である。機構を強調する方向性は、この2作で定まった。その延長線上にあるのが、19年の「タンブール スピン・タイム エアー」だ。ベースムーブメントを限りなく小さくし、時間を示すキューブを強調している。

タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ

[2017]タンブール ムーン フライング トゥールビヨン ポワンソン・ド・ジュネーヴ
タンブール ムーン ミステリューズ フライング トゥールビヨン

[2018]タンブール ムーン ミステリューズ フライング トゥールビヨン

 そしてサヴォアフェールに特化したのが、オートマタの「タンブール カルペ・ディエム」。オートマタが起動すると、まずスカルとそこに絡まる蛇が動く。蛇が首を傾けると、スカル内の時表示が現れ、同時に尻尾が分を指す。さらにスカルの左目がモノグラム・フラワーに変わり、口中にモデル名の「カルペ・ディエム(その日を摘め)」のメッセージが現れる。

タンブール スピン・タイム エアー

[2019]タンブール スピン・タイム エアー
タンブール カルペ・ディエム

[2021]タンブール カルペ・ディエム


ルイ・ヴィトン タンブール エキシビション

2002年の誕生以来、今年で20周年を迎えたルイ・ヴィトンの「タンブール」。言うまでもなく、同メゾンを代表するアイコニックなタイムピースだ。これまで多彩なモデルを発表し、そのいずれにもメゾンのDNAである「旅の真髄(こころ)」と比類なきクラフツマンシップが投入されてきた。

タンブール誕生20周年を記念して、ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングの歴史を、ハイライトとなるヒストリカルピースで振り返るエキシビションが下記の通り開催される。この機会に、ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングへの情熱をその目で直に確かめ、感じていただきたい。

開催日程/2022年9月29日(木)~10月16日(日)
開催場所/ルイ・ヴィトン 渋谷メンズ店 2階
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-20-10 MIYASHITA PARK North
開催時間/11:00~21:00



Contact info: ルイ・ヴィトン クライアントサービス Tel.0120-00-1854


ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングアトリエ責任者が語る、他社と異なる点

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ルイ・ヴィトン初のウォッチコレクション「タンブール」誕生20周年を祝うふたつのハイエンドピース

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ルイ・ヴィトン「タンブール」にまつわる名前の由来を探る

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