ジャッキー・チェンが着用する腕時計は、自身の名前がついたリシャール・ミルの限定モデル!

世界のセレブたちがどんな時計を着けているのか、ワンシーンを切り取り紹介する連載コラム「セレブウォッチ・ハンティング」。今回はカンフー映画に新しい風を送り込み、世界中にファンを持つジャッキー・チェンが着用するリシャール・ミルの腕時計に注目した。

沼本有佳子:文
Text by Yukaco Numamoto
2023年3月5日掲載記事


カンフー映画のイメージを変えたジャッキー・チェン

 ジャッキー・チェンは世界中で活躍する香港の俳優、監督、プロデューサー、武術家、歌手である。それまで、シリアスな復讐劇がほとんどだったカンフー映画界にコメディ要素を入れて広い範囲の人に観てもらうことに成功した立役者のひとりといって間違いないだろう。生い立ちは複雑で、父は中国国民党のスパイであり、国共内戦の末に香港へ逃れて改名し、在香港アメリカ領事館で料理人として働いていた経緯がある。本名が違うこと、兄弟がいることなどを含め、ジャッキー・チェンはこの事実を2001年に知ったというから驚きだ。

ジャッキー・チェン

Photograph by GettyImages
2016年の7月28日にオーストラリアで開催された「ポリスストーリー」のプレスカンファレンスとフォトコールで撮影された1枚。

 映画のストーリーさながらの人生を歩み、この話はドキュメンタリー映画として自ら撮影し「失われた龍の系譜 トレース・オブ・ア・ドラゴン」として2003年に公開されている。

 幼い頃のジャッキー・チェンは7歳から京劇(中国の伝統芸能)や中国武術を学び、映画のエキストラやスタントマンなどで映画の世界に入り、19歳でブルース・リーの「燃えよドラゴン」にエキストラ役で出演するまでにもなっていた。しかし一旦俳優業からは離れて当時オーストラリアに住んでいた両親の元へ移り、俳優業とは関係のない左官や料理人として働いていた。

 再び香港で俳優業に戻ったジャッキー・チェンに転機を与えたのは「蛇拳」だった。それまでシリアスな作風が多かったカンフー映画にコメディの要素を取り入れ、その後は「スネーキーモンキー 蛇拳」をはじめとするヒット作に次々に主演したり、自ら監督を務めたりしながらスーパースターへの道を歩んでいった。「ラッシュアワー」シリーズでは全世界興行成績でも好成績を残し、アカデミー賞のプレゼンターとして登場するなどしてアジアを代表する俳優のひとりとなっている。


リシャール・ミル「RM 057 トゥールビヨン ジャッキー・チェン」を着用するジャッキー・チェン

RM 057 トゥールビヨン ジャッキー・チェン

「RM 057 トゥールビヨン ジャッキー・チェン」を着用するジャッキー・チェンの手元のアップ。

 ジャッキー・チェンが着用しているのは2012年(辰年)に発売されたリシャール・ミル「RM 057 トゥールビヨン ジャッキー・チェン」だ。「龍になる者」という意味を持つジャッキー・チェンの名前からインスピレーションを受けてローズゴールドとホワイトゴールドモデルが世界原点36本で作られた。ドラゴンの髭がトゥールビヨンのブリッジに絡みつくアーティスティックで躍動感のあるデザインはジャッキー・チェンもさぞ気にいったことだろう。龍のウロコの細かさ、翡翠色に輝く背びれの風合いが特に素晴らしい。

RM 057 トゥールビヨン ジャッキー・チェン

リシャール・ミル「RM 057 トゥールビヨン ジャッキー・チェン」
手巻き(Cal.RM057)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18Kローズゴールド(縦50×横42.7mm)。世界限定36本。生産終了。※紹介した画像でジャッキー・チェンが着用しているのはホワイトゴールドモデル。


リシャール・ミル「RM 053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」も着用

ジャッキー・チェン

Photograph by GettyImages
2017年に台北で開催されたリシャール・ミル台北のオープニングイベントで撮影された1枚。

 こちらの写真は2017年に台北で開催されたリシャール・ミル台北のオープニングイベントに登場した際のものだ。着用しているモデルは「RM 053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」で、リシャール・ミルのパートナーのひとりであるポロ選手、パブロ・マクドナウのために開発されたモデルである。自らの名前を冠したモデルまでありながらも幅広いラインナップで所有していることがわかる。続いて、この独特な風貌をしている本モデルについても紹介しよう。

RM 053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ

「RM053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」を着用するジャッキー・チェンの手元のアップ。

 2012年に発表された「RM053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」はチタンでカバーされた甲冑状のケースの中に立体的な円弧が備えられている。ムーブメントは窓部分が30度傾斜するように設計されており、秒針は左側の窓にあるトゥールビヨンキャリッジに、時針と分針は右側の窓に配置されている。この傾斜角度はポロ競技を行う際にライダーが鞍上から時計を見るときに理想的な角度が研究されたものだ。日本ではポロ競技はあまり馴染みがないが、時計の耐衝撃性を高める歴史との関わりが深いスポーツのひとつである。ポロは力いっぱい叩かれるマレットと呼ばれるスティックやボールなどから予測不能な物理的衝撃が発生する。馬に乗りながらボールを奪い合い、ゴールに入れるというルールを想像しただけでもさまざまな衝撃リスクがありそうだ。余談となるが、ジャガー・ルクルトのレベルソも元々はポロ競技のために開発されたスポーツウォッチであった。

 シースルー加工が施された地板とブリッジには徹底した検証テストが課され、最高強度が実現されている。リシャール・ミルはあらゆる衝撃に対する耐性テストを行うために、振子式衝撃試験装置を採用し、ステンレススティール製のボールでケースとムーブメントに5000Gまでの衝撃を与えた。開発途中にパブロ・マクドナウにサンプル品を渡したところ、完全に破壊された状態で戻ってきたことがあるというエピソードもあるので、いかにポロが危険な競技かということがうかがい知れる。

RM 053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ

リシャール・ミルリシャール・ミル「RM053 トゥールビヨン パブロ・マクドナウ」
手巻き(Cal.RM053)。チタン×チタン・カーバイト(縦50mm、横42.7mm)。世界限定15本。生産終了。


ジャッキー・チェンの壮麗なリシャール・ミルコレクション

 上記で紹介した2本以外にもジャッキー・チェンはエアバスとのコラボレーションモデルや、女優ミッシェル・ヨーとの「RM 051 トゥールビヨン フェニックス」「RM51-01 トゥールビヨン タイガー&ドラゴン」、「RM 57-01 トゥールビヨン フェニックス&ドラゴン」といったスペシャルピースを多数所持しているリシャール・ミル愛好家である。現在68歳となり、体を張った本格アクションは2012年の「ライジング・ドラゴン」で引退と公言したのは寂しいが、今も映画界で輝き続ける存在である。2016年にアカデミー名誉賞を受賞し「僕が窓から飛び降りたり、キックしてパンチしたりして骨折しながら映画を作り続けているのはすべて世界のファンのためだよ。ありがとう!」とスピーチした際には、会場でスタンディングオベーションが起きた。ファンへのサービス精神が旺盛で有名なジャッキー・チェンは、香港の撮影所まで訪ねたファンに対して撮影中でもサインや2ショットでの写真撮影など常に特別待遇で接しているそうだ。ファンにとってはジャッキー・チェンがコレクションしている時計にも並ぶ煌びやかな瞬間だったことだろう。


「銀河鉄道999」など多彩な作品を生み出した松本零士が着用するのはオメガ!

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高校時代から放送作家として活躍する秋元康の愛用腕時計は?

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リシャール・ミル/トゥールビヨン

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