今年、発表から30周年を迎えた「ザ・シチズン」。シチズンならではの実用時計として生まれたこのコレクションは、2005年以降、同社のフラッグシップと位置づけられるようになった。しかしながら、高精度や実用性、そして十分なアフターケアといった特徴はこの30年、何ひとつ変わっていない。そのユニークなキャラクターから透けるのは、シチズンの歩みそのものだ。

ザ・シチズン

星武志、堀内僚太郎:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas), Ryotaro Horiuchi
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]


THE CITIZEN First Model
1995年に誕生した最初のフラッグシップ

ザ・シチズン CTZ57-0523

ザ・シチズン CTZ57-0523
1995年に発売されたザ・シチズンのファーストモデル。ベーシックな仕立ての時計だが、年差±5秒以内という超高精度なCal.0350を搭載するほか、画期的な長期保証を謳っていた。クォーツ。7石。SSケース(直径35.6mm)。販売時の定価12万円。参考商品。

 シチズンの創立65周年を記念して生まれた「ザ・シチズン」。1995年5月に発表されたそのファーストモデルは、「壊れないキカイはない」というキャッチコピーと、風防が割れた時計を大写しした広告ビジュアルで大きな反響を呼んだ。

ザ・シチズン CTZ57-0523

年差クォーツを採用した本機では、後年のエコ・ドライブ搭載機ほど太くて長い針を備えていない。しかし、秒針の袴にキャップを被せるなど、高級感を持たせる配慮が見られる。
ザ・シチズン CTZ57-0523

ファーストモデルの特徴が、ラッカー仕上げのホワイト文字盤。写真が示す通り、その質感は非常に高い。また、インデックスには多面ダイヤモンドカット仕上げが施されたほか、内側をくり抜き、黒い彩色を加えている。

 シチズンがこのモデルで目指したのは「ユーザーが自身の分身と考えて長く愛用できる時計」である。そのため同社は、生涯修理保証、10年間無償保証、保証期間内の無償定期点検といった画期的なアフターサービスを打ち出した。もちろん時計自体の完成度も高かった。デザインこそシンプルだったが、外装の質感は大きく向上し、搭載するムーブメントには、シチズンで最も高精度な「Cal.0350」が採用された。このムーブメントのベースとなったのは「エクシード」や「アセンダ」が搭載する年差クォーツのCal.03系である。シチズンは電池の寿命を3年から5年に延ばしたほか、ICで温度補正を加え、エイジングした水晶振動子を選別するなどの工程を加えることで、年差±5秒という超高精度を実現してみせた。

ザ・シチズン CTZ57-0523

ケースサイド。ケースのデザインは典型的な1990年代風である。しかし、風防をわずかに盛り上げ、ベゼルやケースの厚みを抑えたのは新しい。また、ラグの先端に面を加えて、わずかに立体感を強めている。ちなみにこの造形は、最新の一部ザ・シチズンにも踏襲された。

 シチズンが設定した当初の年産数は、メタルバンド(CTZ57- 0523)とレザーストラップ(CTA57-0521)が各1000本ずつ。もっとも前者が12万円、後者が10万円という価格は、同年に発表された多機能モデル「アテッサ チタン」の2倍以上。シチズンが敢えて生産本数を抑えたのは、サポート体制まで含めて熟考された結果だが、企画担当者が売れ行きを怪しんだのも当然かもしれない。しかし発売日の5月28日には、ザ・シチズン用に開設したホットラインがパンクするほどの反響があり、初回出荷分はたちまち完売。ユーザーからの高評価に確信を得たシチズンは、以降、毎年のように、ザ・シチズンのラインナップとその機能を充実させることになる。

ザ・シチズン CTZ57-0523

高級機らしく、日付窓には枠が設けられた。見るべきは印字で施された分インデックス。立体的に施されているが、周囲ににじみはなく、厚みも十分だ。
ザ・シチズン CTZ57-0523

裏蓋。2005年までのザ・シチズンは、製造年度とモットーである“Close to the Hearts of People Everywhere”が刻まれていた。ケースバックはねじ込みではなく、古典的なはめ込み式。敢えてこれを採用した理由は不明だが、ロゴなどがずれないよう裏蓋をセットしたかったためか。にもかかわらず、10気圧防水を実現していた。


THE CITIZEN MECHANICAL Cal.0210 Model
シチズンメカニカルの復権を遂げたマイルストーン

ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 NC1000-51E

ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 NC1000-51E
傑作、Cal.0200に日付表示を加えたCal.0210を搭載する最新版。「シチズンオーナーズクラブ」への登録で5年間無償保証・無償点検でサポートされる。自動巻き。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.2mm)。10気圧防水。88万円(税込み)。

 そもそもは良質なベーシックウォッチとして作られたザ・シチズン。しかし同社はやがて、このコレクションをフラッグシップと位置づけるようになった。その試みのひとつが、機械式ムーブメントの採用だ。2010年、シチズンは約30年ぶりの新規開発ムーブメントをザ・シチズンに採用した。このCal.0910は、同社を代表する機械式のミヨタ8200系と異なり、ETA2892A2の互換機となりうる高級機だった。加えて初のザ・シチズン メカニカルには、優れた仕上げと、まとまりのあるパッケージが加えられた。

ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 NC1000-51E

機械式時計らしい、太くて長い針が本作の大きな特徴だ。注目すべきは、文字盤と針のクリアランス。マージンを持たせたがるシチズンとしては例外的に、その間隔は詰まっている。また、筒カナの先端をフラットに磨くことで、平たいドーフィン針と馴染ませている。
ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 NC1000-51E

高価格モデルだけあって、文字盤の仕上げは一層凝っている。筆者の知る限り、これほど面を加えたインデックスは他にない。ただ個人的には、文字盤に付けられたイーグルマークは蛇足だ。

 再びシチズンが機械式時計に力を入れるようになったのは2012年以降のことだ。この年、同社はムーブメントメーカーのラ・ジュー・ペレ、そして完成品メーカーのアーノルド&サンを擁するプロサーホールディングを買収。翌年には時計本体の製造関連部門を一本化し、時計製造を担う「シチズン時計マニュファクチャリング」を設立した。スイスとの協業と、マニュファクチュールとしての進化が生み出したのが、21年の新型自動巻きであるCal.0200だ。ムーブメントの設計と基本的な部品の製造はシチズン、そして地板と受けの装飾は、ラ・ジュー・ペレによるもの。結果として、このムーブメントは、ETA2892どころか、老舗の作る第一級の自動巻きに比肩するものとなった。しかもその精度は、ザ・シチズンにふさわしく、スイスのクロノメーター規格を凌駕していた。シチズンはこの傑作ムーブメントにふさわしい凝った外装を作り上げ、「メカニカルモデルキャリバー0200」としてまとめ上げた。

ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 NC1000-51E

ケースサイド。大きなムーブメントを収めるため直径は40mmに拡大。しかし、ケースの厚さは11.2mmしかない。また、ケースの全長を短く切ったことで取り回しは良好だ。面白いのはケースサイドの下方に加えられた斜めの面取り。平たいケースサイドを立体的に見せる手法だ。

 エコ・ドライブの印象が強いザ・シチズンにおいて、機械式の存在は決して強くない。しかし、0200系を搭載したモデルは、今後間違いなく、ザ・シチズンの新しい柱となっていくはずだ。

ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 NC1000-51E

加工精度の向上を反映して、「額縁」の仕上げは良くなっている。電気鋳造で製造された文字盤も、視認性を悪化させない程度の立体感を持つ。
ザ・シチズン メカニカル Cal.0210 NC1000-51E

搭載するCal.0210は、現行品としては大きめの直径29.1mmである。スイスのクロノメーター規格を凌駕する高精度を持つほか、仕上げも極めて良好だ。同価格帯で、これに比肩する自動巻きはおそらくないだろう。なお地板と受けのみラ・ジュー・ペレで製造されていたが、現在は国産化された。



Contact info:シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807


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