【81点】パネライ/ ルミノール サブマーシブル1950 アマグネティック スリーデイズ オートマティック チタニオ - 47mm

FEATUREスペックテスト
2018.09.09

 危険というものが誤って捉えられることは多い。サメを恐怖する人間はたくさんいても、クルマを恐れる者はいないだろう。だが実際は、サメに噛まれて死亡する人々よりも交通事故に起因する死者数の方が格段に多いのである。

 アイスダイビングのリスクに対するイメージも似たり寄ったりである。確かに、氷が十分に厚くない湖で氷が割れて水中に落ち込み、溺死するという危険はゼロではない。だが、アイスダイビングのノウハウを持った者であれば当然、氷に覆われた水中でいかに危険を回避するかを知っている。つまり、今日のアイスダイビングは、パネライが腕時計を開発し、イタリア海軍に供給していた1940~50年代の特殊潜水部隊のミッションほど、危険を伴うものではないのである。

 クロノスドイツ版編集部は、今回のテストを行うのに十分な厚さまで氷結した湖をチロル地方でやっと見つけることができた。アイスダイビングの許可を得た後、我々はロープで身を固定して安全を確保しながら、氷結した湖上で氷の塊を電動ノコギリで切り出し、氷の下に押し込んだ。少し待つとダイバーふたりが入り込むのに十分な穴が出現する。水温はプラス1℃と冷たい。寒さから身を守るため、アイスダイビングではダイバーはいわゆるドライスーツを着用する。通常のウェットスーツとは異なり、ドライスーツは水を通さないので肌に水が触れることがない。断熱層として圧縮空気が充填されており、スーツの下に温かい下着を着ることもできる。

氷上への立ち入りを禁止する看板。アイスダイビングを行うのに
十分な厚さを持った湖とはいえ、不意に氷が割れて極寒の水中に落ちないという保証はない。

水中に入るために電動ノコギリで氷に穴を開ける。


 ドライスーツは着膨れするため、スーツの上から腕時計を着用するのは難しい。手袋も水が浸入しないように、バヨネットでスーツに留めるようになっていることが多く、ポリクロロプレン製の手袋よりもはるかに分厚い。尾錠で留めるサブマーシブルは、最後の穴でかろうじて手袋の上から固定することができた。ただ、テストで使用したXLサイズのラバーストラップは、ダイビングスーツの上からではなく、日常でそのまま手首に着けるには少し長すぎるかもしれない。そのため、水陸の両方で使用するには、ストラップの調整範囲にやや制限があると言える。ストラップの穴の数がもう少し多ければ、もしくは、エクステンションが内蔵されていたならば、デイリーユースと共用できただろう。ラバーストラップのラグに近い部分がアコーディオンタイプになっていることは潜水時に有用である。時計にプロフェッショナルな外観を与えるばかりか、この部分があることによって水中でダイビングスーツが圧縮されても時計と手首の間に隙間ができないからだ。水圧でダイビングスーツが圧縮されると最悪の場合、ストラップが緩くなって腕時計が手首から外れてしまうこともあり得る。そのため、この作りは極めて重要である。

 アイスダイビングにおける一番の危険はダイバーが浮上時に、最初に入ってきた穴を見つけられないことである。頭上に厚い氷の層があるため、アイスダイビングでは浮上が簡単ではないのだ。そのため、アイスダイビングは常にふたり以上で行う。ロープで身を固定し、危険や問題があった場合には陸上で待機する安全係にロープを引いて知らせる。緊急事態が発生したら、安全係に引き上げてもらうことも可能である。

歴史にインスパイアされたデザイン

 ダイバーたちは氷上の穴の縁に座り、重たい装備品とともに冷たい水の中に入る。アイスダイビングでは、過酷な温度環境下で硬い氷との接触にも耐え抜くことが腕時計に求められる。「ルミノール サブマーシブル1950 アマグネティック スリーデイズ オートマティック チタニオ - 47㎜」という長いモデルネームを与えられた今回のテストウォッチは、パネライが1950年代半ばから採用している特徴的なリュウズプロテクターを持つケースを備えている。回転ベゼルが装備されていることはパネライではどちらかというと珍しいが、実はこれにもオリジナルモデルがある。後にはダイバーにとって不可欠な要素となる回転ベゼルだが、パネライの腕時計の多くはこの部品を備えていなかった。だが56年に、パネライはエジプト海軍に回転ベゼル付きの腕時計を複数供給している。このモデルはケース径が60㎜もあり、ケース径47㎜で大型とされる他のパネライの腕時計をはるかに凌駕する巨大なサイズだった。なお、今回のテストウォッチも、ケース径は47㎜である。

 潜水の前に、氷の下でも潜水時間を容易に読み取れるよう、ダイバーは逆回転防止ベゼルを回してベゼルの蛍光マーカーと分針を合わせておく。1分刻みで噛み合う回転ベゼルは、回すのにやや力が必要で、ベゼル外周の刻み目が細かいことから、手袋を着けたままの操作はさらに難しい。ベゼル上の5分ごとに配されるインデックスは少し突起した円形のマーカーで、15分ごとのインデックスは同じく円形だがこれよりもやや大きい。これらのマーカーのデザインもエジプト海軍に供給された、前述の56年製オリジナルモデルを踏襲したものである。ベゼルはケースと同様にチタン製で、マットブラックのセラミックスで出来たスケールを備える。セラミックス製スケールのないバージョンも提供されていて、こちらの方がよりオリジナルモデルに忠実だが、コントラスト豊かなテストウォッチの方が好印象に見えた。ベゼルは、傷に強いセラミックス製スケールと細かい刻み目が付いていることから、最も危険にさらされる部分であるにもかかわらず、傷が付いてもあまり目立たない。

アイスダイビングには重たい装備品が数多く必要である。チタン製の腕時計は装備品の軽量化に貢献する。