2026年にマニュファクチュール設立30周年を迎えたショパール。それを記念してリリースされたのが、グランソヌリ、プチソヌリとミニッツリピーターを搭載した「L.U.C グランド ストライク」だ。ベースとなったのは2016年の「L.U.C フル ストライク」。ショパールは時間をかけて機構を熟成し、ついに畢竟の大作を作り上げた。

グランソヌリ、プチソヌリ、ミニッツリピーターにトゥールビヨンを重ねたグランドコンプリケーション。「L.U.C フル ストライク」の大きくクリアな音色はそのままに、耐久性や安全性もさらに向上させている。手巻き(Cal.L.U.C 08.03-L)。67石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KエシカルWGケース(直径43mm、厚さ14.08mm)。予価1億3427万7000円(税込み)。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
竹石祐三:編集
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
鮮やかな音色が証す高度な時計製造技術
時計作りとはワイン造りのようなもの」。かつて、ショパールの共同社長であるカール-フリードリッヒ・ショイフレは筆者にこう語った。もっとも、ただ時間をかければ良い、というものではない。例えばワイン造り。彼はシャトー・モネスティエの買収後、土壌を入れ替え、ブドウの木を植え替え、その栽培法も一新した。まず最良を目指し、その上で熟成させるスタイルは、腕時計も同様である。
ショパールが1997年にリリースした自社製ムーブメント入りのL.U.Cコレクションは、歴史に残るマイクロローター自動巻きの1.96(現L.U.C 96.01-L)を搭載していた。その後加わった、8日巻きのクアトロも1.96に負けず劣らずの大傑作である。そんな同社が、マニュファクチュール設立30周年を祝うべく発表したのが、グランソヌリ、プチソヌリ、ミニッツリピーターを搭載した「L.U.C グランド ストライク」だった。

一般的に、腕時計の「鳴り物」は、ケース内で音を反響させるため、ムーブメントに比して大きなケースを持つ場合が多い。対して、ショパールが2016年に発表した初のミニッツリピーターである「L.U.C フル ストライク」は、ケースギリギリに詰まったムーブメントを持っていた。理論上、音響効果は期待できないが、代わりにサファイアクリスタル製の風防とゴングの単一構造とし、それで音を響かせるようにしたのである。設計としては常識外れだが、理に適っていたことは、大きな音量と、シャンパングラスを弾いたような音色を聞けば明らかだ。
このフル ストライクを「熟成」させたのがグランド ストライクと言える。搭載するモードは時、15分ごとに音で時刻を知らせるグランソヌリ、1時間と15分ごとに音が鳴るプチソヌリ、そしてオンデマンドで音を鳴らせるミニッツリピーターの3つだ。
そもそもムーブメントが大きいフル ストライクは、設計上の拡張性が高い。加えてショパールは、ゴングを動かすクシ歯をコンパクトに仕立てることで、リピーター音のギャップを詰めただけでなく、スペースにゆとりを持たせることに成功した。ここにソヌリを加えた手法は全く無理がない。限定版の「L.U.C フル ストライク トゥールビヨン」で採用されたトゥールビヨンを転用することで輪列を小さくまとめ、ソヌリ機構のスペースを無理なく捻出したのだ。ちなみに、フル ストライクの発表時に、筆者はなぜ、独立した香箱でリピーターを鳴らすのか、とショパールに尋ねた。理由のひとつは防水性能を持たせるため、そしてもうひとつはソヌリのベースになるから、とのことだった。つまり同社は10年をかけてソヌリをものにしたのである。
また、製品化までに1万1000時間以上も研究・開発に費やした理由は、腕時計としての実用性を高めるためだった。誤操作を防ぐため、ショパールは操作系統に複数の安全機構を加えたほか、単一構造の風防とサファイア製ゴングにも、50万回以上の耐久テストを加えた。ソヌリ機構も同様で、ふたつのソヌリモードはそれぞれ6万2400回もの作動試験を経たという。鳴り物は壊れやすいという評価は、本作には当てはまらない。
優れたベースを作り、時間をかけて熟成させるというショパールのスタンス。その歩みは、ついにかつてないソヌリとして結実することになったのである。その完成度はただただ圧巻だ。



