ETA2020年問題が引き金となった自社製ムーブメントの開発競争。資本力のある大メーカーだけが残るのかと思いきや、その穴を気鋭のサプライヤーが埋めようとしている。共通するのは、高度なモディファイ能力。少量多品種と高品質は両立しないという時計業界の常識を、気鋭のサプライヤーは覆そうとしている。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Text & Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
多様化するムーブメントサプライヤー
長らくETAとセリタの2強状態が続いたムーブメントサプライヤーの世界。しかし、近年は面白いメーカーが増えつつある。そのひとつは、ジェイコブやルイ モネなどにムーブメントを供給するコンセプトだ。ETAの代替機を製造し、後には「アストロノミア」のような類を見ないコンプリケーションも作るようになった同社は、ムーブメントサプライヤーの雄である。そこに続くのは、ル・セルクル・デ・オルロジェだろう。同社は既製品を扱わず、徹底的にカスタマイズしたムーブメントのみを扱っている。創業したのは、クリストフ・クラーレ出身のアラン・シーサーと、オーデマ ピゲとラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンでキャリアを積んだニコラス・ヘレンだ。同社はあくまで黒子だったが、自社製ムーブメントの製造に着手し、トゥールビヨンやミニッツリピーターなどを製作するようになった。

ニコラス・ヘレンが在籍していたこともあって、ル・セルクル・デ・オルロジェは間違いなくラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンの影響を受けている。新しくムーブメントを起こすにあたって、ラ・ファブリク・デュ・タンがル・セルクル・デ・オルロジェのエボーシュを使ったのは当然だろう。もちろんルイ・ヴィトンはさらに大幅なモディファイを加えた。レーザーで彫り込んだ地板の仕上げに注目。自動巻き(直径30.6mm、厚さ4.2mm)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。
同社が急速に成功を収めた理由は大きくふたつある。まずは、富裕なオーナーが持つスピークマリンの出資を受けられたこと。そしてもうひとつが、ムーブメントのモディファイをシステム化した点だ。産業分野でも経験を積んだふたりは、物流や調達、検証、管理などのノウハウを持っていた。そんな彼らは生産フローをデジタル化し、次のプロセスの前に問題を解決することで、不良を抑えたのである。時計業界では少量多品種と高品質は両立させにくいと言われているが、ル・セルクル・デ・オルロジェはそれに成功したわけだ。もっとも、急激に成長を遂げた結果、納品が遅れるようになったと一部の関係者は指摘する。これをクリアすれば同社は大きく飛躍するだろう。

ル・セルクル・デ・オルロジェは現在、スピークマリンの全ムーブメントを製造している。これは最新作である、マイクロローター自動巻きハイビート(!)のCal.SMA07だ。コンポーネンツにはエボーシュであるCal.CH200を使用していると予想できるが、性能や厚み、輪列の配置を含めて全くの別物だ。少量多品種を貫くル・セルクル・デ・オルロジェらしさが横溢したムーブメントである。自動巻き(直径35.75mm、厚さ3.25mm)。27石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約52時間。
こういった動きに刺激を受けたのか、老舗のデュボア・デプラも野心的なムーブメントを作るようになった。2019年、同社は初の一体型クロノグラフであるDD540をリリース。続いては、ビバー向けにマイクロローター自動巻きの設計を行った。ビバーがすでに関係のあるル・セルクル・デ・オルロジェを選ばなかったのは、おそらくデュボア・デプラのモジュールをアテにしたため。巧みなモジュール使いで知られるデュボア・デプラは今後、この自動巻きにさまざまなモジュールを追加するだろう。

新作の「オートマティック アトリエ」が搭載するのが、マイクロローター自動巻きのCal.JCB-003だ。受けにはマイクロギヨシェを施すだけでなく、ゼロリセット機構やフリースプラングも備えている。香箱にウルフティース形のラチェットを設けたのは、ジュウ渓谷の伝統に対するオマージュだ。かつて高級なエボーシュをヴァシュロン・コンスタンタンやオーデマ ピゲに提供していたデュボア・デプラの底力を感じさせるムーブメント。自動巻き。36石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約65時間。
同様にセリタも凝ったムーブメントに目を向けるようになった。長年、こういった役目を担ってきたのはラ・ジュー・ペレだ。しかしセリタは、高級なムーブメントを製作するAMTというブランドを立ち上げ、タグ・ホイヤーやノルケインなどにカスタマイズしたムーブメントを提供するようになった。始動して間もないため、まだ全容は明らかになっていない。しかし、今後は確実にシェアを伸ばすだろう。

ノルケイン「インディペンデンス スケルトン クロノ 42mm」が搭載するのは、AMTと共同開発したCal.NN24/1である。ベースは明らかにセリタのCal.SW500だが、カムではなくコラムホイールがムーブメントを制御するほか、フライバック機構も加えられた。かつてラ・ジュー・ペレにモディファイを依頼していたセリタは、以降、自社で完結することになるはずだ。自動巻き(直径30mm)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約62時間。
そして最後にもうひとつ。昔懐かしいランデロンも復活を遂げた。別会社と思いきや「ランデロンの歴史を形作ってきた革新的な精神と卓越性の追求を振り返ることに誇りを感じています」とあるから、正統な後継者であるようだ。3針と、ごく少数のクロノグラフとトゥールビヨンを製作する同社は、2023年にスイスの工作メーカーであるチロンの工場を買収した。今後はランデロンのムーブメントが、低価格帯で広く見られることになるかもしれない。

復活したエクセルシオパークは、クロノグラフにセリタを、3針の「EP 884-SI」にはランデロン・スイス製のムーブメントを採用する。写真が示す通り、これはCal.ETA2801もしくはセリタCal.SW215の完全な代替機。ただし、エクセルシオパークの公式情報によると、パワーリザーブは約40時間とやや長くなっている。価格次第では、レトロ調を打ち出したスモールメゾンに支持されるだろう。手巻き。17石。2万8800振動/時。






