かつての人気作「サクソニア・アニュアルカレンダー」が、小径化を伴ってアップデートされた。直径36mmというスリムなニューケースは、近年の流行にも合致するが、当初の開発目的はそこにはない。コンパクトなダイアルレイアウトと、ユーティリティーの追求。これはデイリーに使いたい年次カレンダーの最適解だ。

Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
鈴木裕之:文
Text by Hiroyuki Suzuki
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年9月号掲載記事]
なぜ、小径アニュアルカレンダーは生まれたのか?
まったく新しいケースサイズで「サクソニア・アニュアルカレンダー」をアップデートしたA.ランゲ&ゾーネ。直径36mmというスモールサイズは、近年の小径化トレンドを意識したものかと思いきや、まったく無関係らしい。事実、開発のスタートは2020年まで遡る。
「このモデルは製品化の企画が先にあったのではありません。発端は私が技術者たちに与えていた、もっとコンパクトなアニュアルカレンダーという研究開発課題でした。しかし完成したプロトタイプを見たら、これがスウィートスポットにピタリと合致していた。実際のケースを作り始めたのは、その後になります」

そう語るのは商品開発ディレクターを務めるアントニー・デ・ハスである。しかし旧作が搭載したL085.1も、新開発のL207.1も、ムーブメントの直径はどちらも30.4mmで変わらない。厚さに関してはフルローター化の影響もあって、少し増加しているくらいだ。
「重要なのはムーブメント径ではなくて、ダイアルレイアウトのバランス。もっと言えば、時分針から各表示までの軸間距離が大切なのです。新しいL207.1では、ここがコンパクトになっています」


そう言われてみれば、新旧サクソニア・アニュアルカレンダーの針配置は、驚くほど均一性を保っている。センターよりほんの少しだけオフセットさせたインダイアルや、アウトサイズデイトまでの距離感など、まさしくサクソニアのバランスだ。実機を手にしなければ、小径化されたことにさえ気付かないかもしれない。
「当初ケースサイズに目標値はなかったんです。36.5mmでも37mmでもバランスの良いところを採るつもりでした。結果36mmがベストとなったのですが、これは私にとっても想定外の驚きでしたね」

一斉送りとセーフティー機構が実現するユーティリティー
新しいサクソニア・アニュアルカレンダーに搭載されたL207.1。これはA.ランゲ&ゾーネのアニュアルカレンダーとしては第3世代にあたる。

サクソニアのデザインコードに沿わせつつ、各表示の軸間距離をコンパクト化した新型アニュアルカレンダー。1815 アニュアルカレンダーで実績のある、歯車制御のレバー式(非連続型)を踏襲しながら、実際の設計は完全に新規。一斉送りプッシャーの誤作動を防止するロック機構も追加された。自動巻き(片方向巻き上げ)。56石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。ムーブメント部品数491個。直径30.4mm。厚さ5.7mm。
最初のモデルは2010年発表の旧サクソニア・アニュアルカレンダーのL085.1(直径30.4mm/厚さ5.4mm)。サクソマットと呼ばれるマイクロローター自動巻きを備え、直径38.5mmのケースに収められた。この原型となったのは、2001年に登場したランゲマティック・パーペチュアルのL922.1で、この永久カレンダー機構から、閏年表示と2月末に関する運針機構を省略した簡易型がL085.1だった。機能的には過不足ない仕上がりだったが、原型機にあったカレンダー表示の一斉送り機構はあえて搭載が見送られた。
同社が初めて年次カレンダー専用機として完成させたのは、2017年の1815 アニュアルカレンダーに搭載された、手巻きのL051.3(直径30.6mm/厚さ5.7mm)だ。このモデルに載せられた厚さ1.4mmの年次カレンダーモジュールは、いわゆる「レバー式」に分類される非連続型だが、レバーを制御するためのカムを用いず、24時間車から連なる輪列にその役割を担わせている。各表示の送り車に設けられた爪がレバーを弾くため、すべての表示が瞬転式となる。カレンダーを合わせる際にはコレクターを押してレバーを動かし、各表示の個別調整が可能となるが、すべてのレバーはプッシャーを介して一括操作できるため、全表示の一斉送りもできる。これは時計を止めてしまった場合に有利だ。
2026年に発表された、第3世代のL207.1(直径30.4mm/厚さ5.7mm)は、旧サクソニア・アニュアルカレンダーのブラッシュアップと言うより、1815 アニュアルカレンダーの直系バージョンアップと考えた方が実際に近い。サクソニアのデザインコードに合わせて、日付表示が9時位置の指針式から、12時位置のアウトサイズデイトに変更されているため、カレンダー輪列の配置が見直され、それに伴ってレバー類もすべて新規設計となっているが、基本的な考え方は同一だ。ムーンフェイズも引き続き、1日分の誤差が累積するまで122.6年という高精度タイプを踏襲する。

大きく変わったのは、一斉送りプッシャーに追加されたセキュリティーシステムだ。具体的にはリュウズを引いた状態でないとプッシャーが押せないように、ロック機構が内蔵されたのだ。同社は一時期、永久カレンダーなどからプッシャーを廃し、コレクター式に切り替えていた。カレンダー表示が勝手に進んでしまうといった修理が頻発したからだ。しかし、どこにも不具合は見つからない。詳しく調べてみると、修理品のすべてがフォールディングバックルを使っていた。つまりリュウズ上で横置きした際に、プッシャーが押されてしまっていたのだ。1815では、リュウズ側の2時位置にプッシャーを配置することで、この問題を回避していたが、サクソニアのプッシャーは10時位置だ。このためアウトサイズデイトの下を潜らせるように、薄く幅広のレバーを3本連結させることで、ロック機構を完成させている。デイリーに使いたい時計だからこそ、ユーティリティーにまで配慮した設計が活きるのだ。

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