オメガの「スピードマスター 38」がアップデートされた。新作では、近年採用されていた楕円形のサブダイアルを円形へと変更し、タキメーターベゼルのプロポーションも見直すなど、「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」を思わせるディテールを随所に盛り込んでいる。一方、ケース径38mm、自動巻きムーブメントという独自の立ち位置は従来通りだ。1988年に始まる小径自動巻きスピードマスターの系譜に連なる本作は、ムーンウォッチそのものではない。しかし、小径化の潮流が続く現在だからこそ、その違いはむしろ魅力になり得る。『ウォッチタイム』アメリカ版のシニアエディター、ゼン・ラブが解説する。

手首周り約17cmの筆者がブラックダイアルモデルを着用。38mm径によるコンパクトな収まりは、ヴィンテージクロノグラフウォッチを思わせる。自動巻き(Cal.3332)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。SSケース(直径38mm、厚さ14.75mm)。10気圧防水。97万9000円(税込み)。
[2026年9月2日掲載記事]
よりムーンウォッチらしくなった「スピードマスター 38」
これはムーンウォッチではない。そして、それでいい。オメガ「スピードマスター」の小径自動巻きモデルには、1988年から続く長い系譜がある。今回登場した新作では、その外観がこれまで以上にムーンウォッチへと近づけられた。小径モデルへの人気が根強い現在、38mmというサイズのスピードマスターは、ある種の時計愛好家にとってまさに求めていた1本となるかもしれない。
1988年に始まった自動巻きスピードマスターの系譜
この系譜の出発点は、1988年に39mm径で登場した「スピードマスター オートマティック」にさかのぼる。その後、サイズやデザインに細かな変更を加えながら複数の世代が展開され、カラーや素材を変えた数多くのバリエーションも生み出されてきた。
その中には、1969年の月面着陸で宇宙飛行士たちが着用した、直径42mmの手巻きクロノグラフウォッチを思わせるモノクロームのツールウォッチ的な意匠を持つモデルも存在した。もちろんオメガは現在も、その歴史的モデルを受け継ぐ「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」を製造している。もし純粋なムーンウォッチを求めているのであれば、選ぶべきはこちらだ。しかし今回取り上げるスピードマスター 38は、それとは異なる腕時計なのである。

オパリンシルバーカラーのダイアルに、グリーンのアルミニウム製ベゼルリングを組み合わせたバイカラーモデル。18Kムーンシャイン™ゴールドはベゼルやプッシャー、リュウズ、ブレスレットのスモールリンクに用いられる。自動巻き(Cal.3330)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。18Kムーンシャイン™ゴールド×SSケース(直径38mm、厚さ14.75mm)。10気圧防水。173万8000円(税込み)。
円形サブダイアルへの回帰
オメガが正式に「スピードマスター 38」と呼ぶコレクションを見比べてみると、今回の新世代にはいくつかの大きな変更が確認できる。ただし、その多くはまったく新しい試みというよりも、過去のスピードマスターへ立ち返ったものと言える。
例えば近年のモデルでは楕円形のサブダイアルが用いられていたが、新作では再び円形となった。また、従来細身に設計されていたベゼルも見直され、ムーンウォッチを思わせる、より厚みのあるクラシカルなプロポーションが与えられている。
大型化したサブダイアルで整えられたバランス
とりわけ目を引くのが、大型化されたサブダイアルだ。従来の多くのモデルよりもダイアル中央寄りに配置されたことで、全体としてより均整の取れた印象となった。結果として、その外観は一段とムーンウォッチに近づいている。
オリジナルのデザインを詳しく知らない人であれば、一見しただけではムーンウォッチと見間違えることさえあるかもしれない。一方、熱心なムーンウォッチ愛好家であれば違いにはすぐ気付くだろう。プロフェッショナルではサブダイアルがアワーインデックスの内側に収まるのに対し、スピードマスター 38ではサブダイアルがインデックスの一部に重なっている。また、ダイアル上のテキストも少なく、よりクリーンな印象だ。
「ドット・オーバー 90」も採用
ムーンウォッチを意識した要素はほかにもある。そのひとつが、タキメーターベゼルに採用された、いわゆる「ドット・オーバー 90(DON)」だ。これはタキメータースケールの「90」の上方にドットを配置した、ヴィンテージのスピードマスターを象徴するディテールのひとつである。
かつてヴィンテージウォッチのコレクターにとってDONは、特定年代に製造された個体を識別するための重要な特徴だった。しかし現在では、時計愛好家に訴求するひとつのキーワードとなり、現行のムーンウォッチやムーンスウォッチを含む新しいモデルにも取り入れられている。
つまり今回のスピードマスター 38では、明らかにプロフェッショナルとの結び付きを強めるためのデザインが施されているのだ。それが最も分かりやすいのが、デイト表示を持たないブラックダイアルモデルである。

自動巻きという、ムーンウォッチとの明確な違い
既存のスピードマスター 38から変わっていない要素もある。その代表が、腕時計を装着している限り外から見ることのできないムーブメントだ。ケースバックにはシーホースのメダリオンが配されており、この意匠もまたスピードマスターの歴史とのつながりを感じさせる。
しかし、その内側に収められたムーブメントはムーンウォッチとは大きく異なる。最大の違いは、もちろん自動巻きであることだ。従来世代と同様、デイト表示を備えるモデルにはCal.3330、ノンデイトのブラックダイアルモデルにはCal.3332が搭載される。
コーアクシャル脱進機とコラムホイールを採用
Cal.3330とCal.3332は、オメガのコーアクシャル脱進機を搭載し、クロノグラフウォッチの制御にはコラムホイールを採用する。振動数は毎時2万8800振動で、パワーリザーブは約52時間。滑らかなプッシャー操作を可能とするとともに、日常的に扱いやすい自動巻きクロノグラフウォッチとして仕立てられている。

38mmだからこそ成立する「もうひとつのスピードマスター」
こうした小径自動巻きスピードマスターには、ブランドやコレクションが持つ魅力の一端が確かに宿っている。しかもムーンウォッチとは異なる、いくつかの明確なメリットを備えた選択肢でもある。それが自分の求めるものと一致しているのであれば、有力な候補となるだろう。
最も分かりやすい長所はサイズだ。ヴィンテージウォッチを思わせる38mm径のケースに、端正でツールウォッチらしいクロノグラフウォッチを収めたことを、現在あえて否定的に捉える人は多くないはずだ。
17cmの手首に収まるコンパクトなクロノグラフウォッチ
筆者の手首周りは約17cm。実際に着用すると、ヴィンテージクロノグラフウォッチに期待するような収まりの良さを感じさせる。ただしケース厚は14.75mmあるため、角度によってはやや厚みを強く感じることもある。
ムーンウォッチが大きすぎると感じる人にとって、スピードマスター 38はひとつの妥協案である。しかし、多くの点でよくできた妥協でもある。もっとも、42mm径のムーンウォッチも、実際には小さめの手首に意外なほどよく収まる。そのため、可能であれば一度試着して比較してみることを勧めたい。
それでもスピードマスター 38には、ムーンウォッチの歴史を背景に持ちながら、より小さな手首に対応し、自動巻きという日常的な使いやすさまで備えるという独自の魅力がある。
2026年新作は多くのバリエーションをラインナップ
2026年に刷新されたスピードマスター 38は、計7モデルがラインナップされる。ステンレススティール製のモデルには、ノンデイトのブラックダイアルに加え、ホワイトダイアルとシルバリーカラーのダイアルを用意。ブラックのみCal.3332を搭載し、それ以外の6モデルにはデイト表示を備えたCal.3330が用いられる。
ゴールドとのバイカラーとダイヤモンドベゼルも展開

さらにステンレススティールと18Kムーンシャイン™ゴールドを組み合わせたモデル、18Kセドナ™ゴールドを組み合わせたモデルの2種類を展開する。ムーンシャイン™ゴールドモデルではオパリンシルバーカラーのダイアルとグリーンのベゼルを組み合わせ、一方のセドナ™ゴールドモデルではアイボリーのメインダイアルにブラウンのサブダイアルを合わせた、いわゆる“カプチーノ”スタイルを採用している。
残る2モデルでは、ベゼルに合計1.53カラット、52石のダイヤモンドをセット。アイスブルーカラーのダイアル、またはホワイト マザー オブ パールダイアルが組み合わされ、より華やかな方向からスピードマスター 38のデザインを表現している。
ムーンウォッチそのものではない。それでもスピードマスターである
結局のところ、今回加えられた数々のムーンウォッチ的なディテールは、スピードマスター 38をこれまで以上に時計愛好家へアピールするためのものに見える。
もちろん、熱心な愛好家にとって小径自動巻きスピードマスターがムーンウォッチになることはない。同じオメガが作り、同じスピードマスターというコレクションに属することには意味がある。しかし、これをひとつの「オメガ スピードマスター」として楽しむ人がいる一方で、どうしても「ムーンウォッチではない時計」と捉える人もいるだろう。
では、筆者自身はこれを着用するだろうか? もちろんだ。ムーンウォッチではないという理由だけで、この腕時計の魅力まで否定する必要はない。
円形サブダイアル、見直されたベゼル、「ドット・オーバー 90」といったディテールによって、これまで以上にスピードマスターの伝統へと接近した新しいスピードマスター 38。一方で、直径38mmのケースと自動巻きムーブメントという独自性はしっかりと残された。伝説そのものではなく、そのエッセンスをより日常的なサイズと使い勝手で楽しみたい人にとって、以前にも増して説得力のある選択肢となったのではないだろうか。



