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時計修理の現場から/クロノスイス「オレア」(1/2)

ポンス台

 時計を所有するということには、必然的にメンテナンスが伴うものである。『クロノス日本版』の読者であれば、その現場に立ち会ったことがあるのではないだろうか。
 この新連載では、さまざまな「時計修理工房」で働く技術者たちを訪ね、その眼差しや葛藤を少しでも伝えてみたい。
高井智世(クロノス日本版):取材・文
Text by Tomoyo Takai (Chronos-Japan)

Vol.1 修理品/クロノスイス「オレア」

修理依頼者/鈴木裕之(クロノス日本版編集部)

依頼者と修理品の出会い/依頼者が初めて入手した機械式腕時計がこのクロノスイス「オレア」だったが、この思い入れのある時計はある日姿を消してしまった。時を経て再び出会った「オレア」は不動品ではあったが、初代と気持ちは変わらず、修理を前提として入手した。

修理品を持ち込んだ工房/ゼンマイワークス

修理工房で、故障原因発見。「振り石が折れている」

 シースルーバックからのぞく機械から、ぱっと見は状態の悪さは感じられない。油が固着しているだけかもしれない、と楽観的な期待を持ちつつ、依頼者はゼンマイワークスを訪れた。
「また、“死体”を手に入れちゃったんですけど……」
「……またですか」
 旧一新サービスセンター時代にオールド・パテックで腕を磨いた実力派の佐藤努氏が立ち上げたゼンマイワークス。今ではクロノス日本版編集部の“駆け込み寺”となっており、編集部員たちは、ここに足を向けて眠ることは許されない(ハズだ)。
 時計を手に持って振ってみると、テンワは振れるのに、アンクルがまったく動かない。機械を精査するため、佐藤氏は時計に顔を近づけ、しばらくして眉をひそめた。ケース内のテンワ近くに、小さな赤い点を見つけたのだ。

 どうやらそれは折れた振り石のかけららしい。振り座には、その根元が残っていた。
振り石とは、時計の心臓部である精度を調整するテンプの、振動の起点となる部品である。アンクルと接することで、輪列からの動力エネルギーを受けとる役割を持っている。
 振り石は、元はテンプの振り座に圧入されていた。これが外れていただけなら付け直すまでであるが、不思議なことに、ぽっきりと折れていた。故障例が少ないため、修理用のパーツも多くはない。
 佐藤氏は修理依頼を受けた直後にこう言っていた。「正規のパーツは手に入らないですよ」。しかし、ベースのマーヴィン700ならば、流通量は決して少なくない。佐藤氏は依頼者が“業界人”であることを前提に、とんでもないことを言い出した。「ドナー、用意できます?」。

 クロノスイス初の量産モデルとして1990年代に誕生した「オレア」であるが、このモデルには「マーヴィン700」という50年代のオールド・ムーブメントが搭載されている。これは、伝統的な時計製造に情熱を注いだクロノスイス創設者のゲルト・R・ラング氏が所有していたオールドストックをベースに、仕上げを施したもの。
 帰宅後さっそく依頼者は海外サイトにアクセスした。そして、パーツを取り出すための“ドナー”を見つけ出してきた。

修理前のムーブメント。小さく分かりづらいが、折れた振り石がテンプ近くまで飛んでいる。

“ドナー”として修理依頼者が見つけてきた「マーヴィン700」の準同型機。
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