2026年4月14日〜20日まで、スイス・ジュネーブで開催されたウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ。時計専門誌『クロノス日本版』編集長の広田雅将が、例年疲れた体にムチ打ちながら更新していた「ジュネーブ日記」を、今年初めて現地取材する編集部の鶴岡智恵子が引き継いだ。新作見本市の空気とともに、ジュネーブでの苦しくも楽しい(ほんとか?)日々をお届けする。

Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2026年4月24日公開記事]
改めて各社のブースを見て回る
朝4時起床。ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ3日目。昨日の疲れがまだ抜けない。この日の朝は仕事はせず、起床時間までベッドに体を横たえる。6時30分に朝食を取り、7時5分発の電車に乗ってジュネーブ市内へ。
移動中、『クロノス日本版』本誌チームの細田雄人パイセンからグループLINEの招待が来た。「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2026の連絡・共有用です!」とのこと。プロフィール画像が未設定だったので、この写真を勝手に登録。

ジュネーブ空港に着いたら、昨日と同じく会場まで徒歩で向かう。さすがに今日は迷わず、スムーズに到着した。エントランスに入ると、昨日よりも明らかに来場客数が増えている。取材のアポイントメントを取っていた時、「4月16、17日は結構満席の枠が多いんですよ」とブランドが言っていたので、一般公開日はまだとはいえ、後半に進むにつれ来場客が増えるのかもしれない。


取材まで時間があったので、改めて会場内の各ブースを見て回る。大小はあれど、各社の“色”の出た、創意工夫にあふれるブースは、外観・内装ともに面白く、見ていて飽きない。とりわけ印象に残ったのがユリス・ナルダンだ。同ブランドを代表するコレクション「フリーク」25周年にあたり、自社の歴史にスポットを当てた展示が用意されており、その一環で来場客から最も目立つホールに面したスペースに、ルートヴィヒ・エクスリン博士の顔の像が鎮座していたのだ。また、ユリス・ナルダンがなぜか2体のロボット(?)を会場内に放っており、縦横無尽に走り回っていた。




時計産業の古今のクラフツマンシップに触れる
この日の最初の取材はジャガー・ルクルトのブースツアー。タッチ&フィールで新作時計はすでに見ていたが、ブースをゆっくり見て回ってはいなかった。解説を聞いているうちに、時計製造技術にとって、そしてジャガー・ルクルトにとって歴史的な地となるスイス・ジュウ渓谷の世界観を取り入れたこのブースは奥深く、また、この地で培われた、同ブランドのこれまでとこれからのクラフツマンシップに触れることができた。





ブースに見どころが多すぎて、次のアポまであと2分……! 落ち着いていこう、まだあわてるような時間じゃない(あわてるような時間)。バタバタ走りながらクレドールへ。
セイコーウオッチが国産ドレスウォッチブランドとして展開するクレドールは、2026年に初めてウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブに出展した。そのため今回の出展では、世界にクレドールを認知させることがひとつの目的となる。ブースは国内のクレドールサロンで採用されている内装をベースに、新作時計のほか、「叡智II」や「ゴールドフェザー」といったコレクションの数々が並べられる。まだ少ないとはいえ、日本であればクレドールサロンである程度のモデルは見ることができる。しかし海外展開は十分とは言えず、海外の時計愛好家にとって、これだけのクレドールの製品を観賞できる機会というのは、貴重なものとなるだろう。
さらにブースでは、実際に新作「ゴールドフェザー トゥールビヨン 彫金 限定モデル」を手掛けた彫金師による実演も! 拡大した映像でゆっくりと丁寧に、しかし確実に彫り込んでいく様を見ることができた。拡大こそされているものの、実際は文字盤の極小サイズ。気が遠くなる作業だ。なお、彫刻刀の刃先は社外秘なので、横から写真を撮影するのはNGだ。


次に向かうはカルティエのタッチ&フィール。また走る。ブースに着くと、すでに参加者がそろっていた。日本語セッションなので、見知った顔がちらほら。
それにしてもカルティエはどのモデルも出来栄えに感嘆させられた。外装も自社製造しているだけあり、複雑な形状やラインを実現しつつ、卓越した仕上げも与えているのだ。手間暇は相当かかるであろうに、例年多作であることも特筆すべき点である。





カルティエの傑出した新作時計の数々を目にしてブースを出たあたりで、また熱っぽくなってくる。各社の、時計からもブースの展示からも伝わってくるクラフツマンシップをインプットしすぎたようだ。日本であればうれしい悲鳴だが、ここスイスでは、まだまだ取材の道のりは続く。
カウンターで水をもらって飲み干し、リフレッシュしてユリス・ナルダンへ。
前述の通り、今年のユリス・ナルダンは何もかもが型破りだ。ブースデザインのみならず、その破天荒さは新作時計にも表れている。「史上最も複雑なタイムオンリーウォッチ」として発表された「スーパーフリーク」は、時刻表示のみならが、カルーセル機構とダブルフライングトゥールビヨンを併催させているのだ。


これだけの巨大かつ複雑な機構を腕時計サイズに収めるために使われた技術も型破りなものだ。この時計については、改めてwebChronosまたはwebChronosTVで取り上げるので、乞うご期待(早く原稿書かなきゃ……)。
ユリス・ナルダンですっかり長居してしまい、飲み物までしっかりご馳走になり(Sさん、本当にすみませんでした)、次はA.ランゲ&ゾーネのセッションへ。ちなみに時間の空きが20分くらいしかなく、ここでランチを取らなきゃもう今日は取れない状態だったが、食堂までは行けなかったため、プレスセンターで謎のサラダを立ち食い。立ち食いなので写真はありません。サロンなのにお行儀悪くてごめんなさい。
A.ランゲ&ゾーネもジャガー・ルクルト同様、前日にタッチ&フィールを済ませていたものの、新作時計の詳細をレクチャーしてもらうために参加。商品開発ディレクターのアントニー・デ・ハス氏が解説してくれるという豪華なセッションだった。広田と鈴木裕之も参加していた。

広田がデ・ハス氏にいろいろ質問していて、勉強のために聞いていたかったが次のアポイントメントがあるのでブースを出る。ブース前で本誌チームの副編集長・鈴木幸也とフォトグラファーの三田村優氏、高橋敬大氏と遭遇。三田村氏は毎年のようにスイスの新作見本市取材の撮影を担当してくれているので、もはやブースの場所をほとんど覚えており、私が「クロノスイス! クロノスイス!」と叫んでいると「あっち側ですよ」と教えてくれた。写真がうまい、イケメン、人柄も良いとか、漫画の主人公かな?
さておき、クロノスイスへ。クロノスイスでもギヨシェマシーンが置かれており、職人が教えてくれながら体験できるワークショップを行っていた。私はすでにジャガー・ルクルトで体験していたので説明を聞くにとどめていたが、なんと説明してくれた職人が、同ブランドでギヨシェおよびエナメルを手掛けるMaik Panziera氏であった。なぜ「なんと」なのかと言うと、以前『クロノス日本版』2024年1月号の新鋭で「デルフィス」について取り上げた際、実機を撮影中にエナメル文字盤がドーム型に湾曲しており、「ここにエナメルを施すのは大変だろうな」と思って調べると、クロノスイスではかつてファベルジェのエナメルを手掛けていた職人がいて、その彼がエナメルを担当していると聞いていた。その元ファベルジェ職人がPanziera氏であったのだ。



クロノスイスを出た後はショパールへ。時計・宝飾ジャーナリストの野上亜紀氏のセッションがまだ終わっていなかったので乱入。ショパールは「L.U.C.」30周年ということもあり、このマニュファクチュールムーブメントを搭載した名品の数々を多数打ち出してきた。




ショパールでまたまた長居し、2杯もキウイジュースを飲んだ後(Hさん、本当にすみませんでした……)、一度別の取材へと向かっていた野上氏と合流、フランスの時計ブランド・TRILOBE(トリローブ)へ。この時計ブランドは、2023年のジュネーブ・ウォッチ・デイズを取材した際、初めて知った。時・分・秒を3つの回転ディスクによって表示させるレギュレーターのユニークさもさることながら、例えばディスクを表示する小窓を丁寧に磨いていたり、文字盤の発色や質感が極めて優れていたりと、マイクロブランドでありながら下手な大手よりも上質な時計を製造していることに深く感銘を受け、それ以来大ファンだった。今回のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブでの出展を知り、どんなに忙しくても絶対に見に行こうと思っていたブランドのひとつであったのだ。「野上さん絶対好きになるブランドですから! 私の貯金を全額賭けても良いです(なお給料日の10日前で、残高は4000円ほどであった模様)」と、宝飾への造詣が深いながら、時計についても博識な野上氏を引っ張り、ブースへ。

その後、野上氏といくつかのブースを回る。グランドセイコーに行くと、黄綬褒章を受章した平賀聡氏の実演が……!

その後、いくつかのブースを回り、野上氏は会食があるというので18時くらいに別れる。18時過ぎのシャトルバスに乗って帰途につく。本当はこの日の夜、広田以外の編集部のメンバーに空きができたため、みんなで食事をという予定だったが、疲れきって何も話したくなかったのでスキップさせてもらった。しかしちょっと飲みたい気分だったので、ホテルの近くで1杯だけ……。

ホテルには21時過ぎくらいに帰り、シャワーを浴びる。そして泥のように眠る。




