エルメス新作、「H08 スケレット」ムーブメント名の「S」は次なる飛躍への布石か?

FEATURE WatchTime
2026.06.12

エルメスの人気メンズウォッチコレクション「H08」に、かつてないほど洗練された新作「H08 スケレット」が登場した。最大の特徴は、H08特有のフォルムに合わせて専用設計された新型スケルトンムーブメントの搭載である。本作は、エルメスのウォッチメイキングにおける新たな次元の幕開けを告げる野心作だ。

エルメス「H08 スケレット」Ref.W408556WW00
自動巻き(Cal.H1978S)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(縦42×横39mm)。10気圧防水。予価346万5000円(税込み)。
Text by Zen Love, originally published by watchtime.com
[2026年6月12日掲載記事]


「四角いケースに丸いムーブメント」といった妥協は一切ない

「H08」の特徴的なケース形状に合わせて専用設計された新型スケルトンムーブメント。それを搭載する新作「スケレット」は、エルメスがH08に抱く、包括的で調和のとれた新たなビジョンを体現している。

 世の中にはスクエア型やクッション型の時計が数多く存在するが、エルメスのH08に似たデザインを見つけるのは至難の業だ。2021年の誕生以来、多彩なバリエーションを展開し、今や同ブランドのメンズウォッチを牽引するフラッグシップコレクションへと成長を遂げた。

 さらに、先月の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026」において、エルメスはH08を次なるステージへと引き上げた。このモデル特有のフォルムに合わせて専用設計された「マニュファクチュール」ムーブメントを搭載したのだ。時計製造における洗練度や注目度、さらには価格設定の面でも、H08がまったく新しい領域に足を踏み入れたことを物語っている。

コレクション初の試みと、ふたつのバリエーション

 おなじみのケースとほぼ変わらないサイズ感でありながら、文字盤とムーブメントの完全なスケルトン化はコレクション初の試みとなる。ローンチ時にはふたつのバリエーションがラインナップされ、それぞれ数色のラバーストラップから選択可能だ。

 1本は針とインデックスにブルーの蓄光塗料を施し、十分なコントラストを持たせたデザインである。そしてもう1本は、全体をグレーで統一したモノクロームモデルだ。こちらはスケルトン特有の視認性の低さはあるものの、さまざまなカラーのストラップに馴染む汎用性の高さが魅力となっている。なお、両モデルともにブラックDLCコーティングのチタン製ケースと、ブラックセラミックス製ベゼルを採用している点は共通である。

エルメス「H08 スケレット」Ref.W408393WW00
インデックスに鮮やかなブルーを用いたモデル。側面から見ると、スクエアな形状の角の処理や、インデックスやスケルトン仕様の地板の立体感がよく見える。自動巻き(Cal.H1978S)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(縦42×横39mm)。10気圧防水。予価346万5000円(税込み)。

受け継がれるスペックと、新たなプロポーション

 スペックに目を向けると、幅39mm、ラグからラグまで42mm、10気圧防水と、従来のH08と完全に一致する。ただし、厚さだけは11.69mmと、従来より1ミリ以上増している点には注意が必要だろう。とはいえ、装着感が損なわれる心配は無用だ。むしろ、ダークな色調とチタンの質感によって、思いのほかコンパクトに感じられるかもしれない。

 従来モデルとの共通点がコレクションとしての連続性を担保する一方で、本作は明確な再設計とリポジショニングのメッセージを放っている。そして、その核心にあるのがほかでもない新ムーブメントなのだ(もっとも、そのムーブメント自体がケースありきで設計されたものではあるのだが)。

ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエとの協業

 エルメスはここ20年来、ムーブメントメーカー、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエの株式を一部保有してきた。パルミジャーニ・フルリエやリシャール・ミルなどにも傑出した仕事を提供している名門だ。そのため、ヴォーシェ製ムーブメントをエルメスの「インハウス」と呼ぶべきか、「マニュファクチュール」とするか、あるいは別の表現が相応しいのかは、時計愛好家の解釈次第と言える。

 確かなのは、これまでH08などに搭載されてきた自動巻きムーブメント、Cal.H1837がエルメスに確固たる名声をもたらしてきたこと、そして今回の新型Cal.H1978Sがそのハードルをさらに一段高く設定し直したという事実である。

「H08 スケレット」のケース形状に合わせて専用設計された新型ムーブメント、Cal.H1978S。ブリッジにはケースと同じチタン素材が採用されている。

 引き続きヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエが手掛けたこの新ムーブメントは、大胆なスケルトン仕様というだけでなく、「H08 スケレット」専用設計である点に大きな価値がある。「四角いケースに丸いムーブメントをただ押し込んだ」ような不格好さは微塵も感じられない。

 デザイン上の白眉は、丸みを帯びたスクエアケースの輪郭に沿うようかたどられた、ユニークな形状のローターだろう。この独自のフォルムは、文字盤側のインナーミニッツ/セカンドトラックにもリフレインされている。さらに、ケースに用いられたチタン素材は、ムーブメントのブリッジにも採用される徹底ぶりだ。こうした細部への執念こそが、時計全体に圧倒的な「本物感」と「一体感」を宿らせているのである。

「H08」コレクションの未来

 では、この新しいH08 スケレットの登場は、今後のH08コレクションに何をもたらすのだろうか。これが既存モデルと完全に置き換わるものなのかは、現時点では定かではない。しかし、ムーブメント名であるCal.H1978Sの末尾の「S」は、いずれスケルトンではない(「S」のつかない)バージョンが登場する可能性を匂わせている。

 予定価格は346万5000円。従来モデルの優に2倍を超え、数多の名機がひしめく激戦区へと突入したことになる。だが、時計全体がこれほどまでに高次元で調和する本格的なウォッチメイキングは、まさにこの価格帯から始まると言っても過言ではないのだ。



Contact info: エルメスジャポン Tel.03-3569-3300


「時を忘れる時計」をはじめ、エルメスの独創的な2025年新作モデルを振り返る

FEATURES

2026年 エルメスの新作時計を一挙紹介!

FEATURES

エルメスの時計を知る。時を超えるエレガンスとモダンデザインの融合

FEATURES