最初のモデルを発表して以来、「日本のウォッチマニュファクチュール」としての体制を着実に構築してきたNAOYA HIDA & Co.。その2026年の新作は、これまでにない新たな挑戦に満ち、時計愛好家の好奇心を刺激する。

パリのメトロ(地下鉄)入り口の鋳鉄製の屋根や柵を連想させるアールヌーヴォー様式を立体的にエングレービングしたケースが秀逸。月の満ち欠けを表示するムーンフェイズのディスクはラピスラズリを用い、顔を手彫りしたゴールドの月を固定する手法が用いられている。2026年は2本程度の製造を予定。手巻き(Cal.3021LU)。18石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KYGケース(直径37mm、厚さ10.8mm)。5気圧防水。限定2本。1650万円(税込み)。
(左)NH TYPE7A
クロノグラフ秒針および30分積算計の針には青焼きが用いられているが、時・分・秒針は18Kイエローゴールド製であり、機能ごとに色が分けられている。機能だけでなく美しい外観も注目に値する手巻きクロノグラフの名機である。2026年には10本程度の製造を予定。手巻き(Cal.2926CH)。17石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SSケース(直径36mm、厚さ11.7mm)。3気圧防水。限定10本。583万円(税込み)。
Text by Masaharu Nabata
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年7月号掲載記事]
NH ウォッチが挑戦する新たな時計表現の地平
2018年の創業以来、1930〜60年代のヴィンテージモデルをモチーフに時計作りを行うNAOYA HIDA&Co.。素材や技法は極めて伝統的だが、2026年の新作では、これまでにない大胆なコンセプトが導入された。
まず新作「NH TYPE3B-4」は、ムーンフェイズを搭載する「NH TYPE3B」シリーズ初の18Kイエローゴールドケースに流麗なハンドエングレービングを施したモデル。そのモチーフは19世紀末から20世紀初頭に世界を席巻したアールヌーヴォーであり、水や雲の流れを思わせる複雑で華麗な模様を、ボヴェなどが得意とする、モチーフの周囲を彫り下げて立体感を得る「フルリザン装飾」にインスパイアされた技法で表現している。
だが見どころはエングレービングだけではない。文字盤外周の分目盛りリングは別部品を手で研磨した60個のイエローゴールドのドットをセット。立体的なアラビア数字インデックスは、手で数字を彫り込んだ後、金箔を貼り付ける凝った技法が採用されている。
ちなみに古典的な腕時計を作る際、誰もが考えるのがヴィンテージムーブメントの採用だ。しかし飛田直哉氏が時計作りを考えた際、当時は経験も十分なく、スペアパーツの入手に不安があったため採用を見送ったと言う。それが、新作の手巻きクロノグラフ「NH TYPE7A」で実現した。
搭載されるのは1916年に製造を開始し、約60年にわたり作り続けられた名機、バルジューのキャリバー23だ。この傑作ムーブメントを最新の超精密加工技術で製作したケースに搭載。しかも手彫りインデックスなど、工芸的要素も加えて、ハイエンドなモデルに仕上げた。これが日本で実現したことを誇りに思う。

ところで「ポーセリン(陶磁器)文字盤」をご存じか? これは粘土や石を砕いたカオリンを焼き固めたもの。それに対しメタルのプレートにガラス質の釉を塗って焼成したのがエナメル(琺瑯・七宝)。新作「NH TYPE2C-2」の文字盤はメタルベースではないポーセリン。これまで金属に彫金を施した文字盤が主体だったが、ここで初めて他素材の文字盤が実現した。しかも文字盤の美しさのみならず、手描きのロゴとインデックスの完成度に驚く。数字の描写が印刷のように正確であることに加え、「セリフ」と呼ばれる末端の装飾に至るまで寸分の隙もない緊張感あふれる表現と、メタリックで立体的な質感に息をのむ。

類まれなる透明感を持つポーセリン文字盤と、そこに配されたアラビア数字インデックスの繊細な描写に驚かされると同時に、それを担当した職人の技能の高さには感心するしかない。なお、ヴォー・エプソンを使用したカーフストラップが付属する。今年は10本程度を製造する予定。手巻き(Cal.3020CS)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径37mm、厚さ11.4mm)。5気圧防水。限定10本。313万5000円(税込み)。
香港とニューヨークにショップを構えるメンズクロージングのジ・アーモリーとNAOYA HIDA&Co.による3度目のコラボレーション作品は、文字盤に繊細な羽根のモチーフをハンドエングレービングした「NH TYPE4A-2」だ。
文字盤の素材は空気に触れても変色しにくい銀合金「アルゲンティウムシルバー」。これは純度92.5%のスターリングシルバーに、銅とわずかなゲルマニウムを混ぜたもの。酸化しにくいメンテナンスフリーの銀素材として知られる。そこにビーズブラスト加工を施し、繊細な彫りで実体化した3枚の羽根がフワリと浮かぶかのように刻まれている。そこから羽根の軸の鋭さと、羽毛の柔らかさがドーム型サファイアクリスタルを通してさえも、リアルに伝わってくる。

1960年代の腕時計デザインにインスパイアされた、904Lステンレススティールの直径36mmケースに、手巻きのCal.3020CSムーブメントを組み合わせた。2026年には10本のみ製造され、納品は2027年を予定している。手巻き(Cal.3020CS)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径36mm、厚さ11mm)。5気圧防水。限定10本。3万3000USドル、もしくは25万7400香港ドル。
昨今、マイクロブランドと呼ばれる小規模時計メーカーが注目されつつあるが、それらの中でもNAOYA HIDA&Co.のレベルの高さは抜きんでている。そう実感するのは、決して私だけではないだろう。



