広田雅将が語るジラール・ペルゴ「ロレアート ターコイズブルー」。不可能を可能にしたワケとは?

2026.08.24

2026年7月、ジラール・ペルゴが日本市場に向けて30本限定で打ち出した「ロレアート ターコイズブルー」。本作を、ただの限定モデルと思うなかれ。厚みを持ちやすいエナメル文字盤を採用しながらも、“ラグスポ”としてのパッケージにまとめ上げられた快作なのだ。この特別なロレアートを、高級時計専門誌『クロノス日本版』およびwebChronos編集長の広田雅将が解説する。

ジラール・ペルゴ ロレアート ターコイズブルー

広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2026年8月24日公開記事]


エナメル+“ラグスポ”を実現したジラール・ペルゴ

 金属製のディスクに釉薬を塗布し、約800℃で焼成するエナメル文字盤。多くの愛好家はその美しさを賞賛するが、時計メーカーとしてはこれほど厄介なモノはない。釉薬を何度も重ねて焼き上げるエナメル文字盤は、必然的に厚くなる。そのため、薄い金属文字盤を前提としたケースにはフィットしないのだ。加えてガラス質のエナメルは応力に弱く、わずかな歪みでもクラックが入ってしまう。結果として、エナメル文字盤を持つ時計の多くは、厚いケースを持つドレスウォッチになることが多かった。今回ジラール・ペルゴが発表した日本限定30本の「ロレアート ターコイズブルー」が興味深いのは、あえてその定石を外し、しかも時計として巧みにまとめ上げた点にある。

ジラール・ペルゴ「ロレアート ターコイズブルー」Ref. 81010-11-3659-1GM

ジラール・ペルゴ「ロレアート ターコイズブルー」Ref.81010-11-3659-1GM
自動巻き(Cal.GP01800)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SSケース(直径42.00mm、厚さ10.68mm)。10気圧防水。日本限定30本。277万2000円(税込み)。

 1975年にリリースされた「ロレアート」は、間違いなくラグジュアリースポーツウォッチの先駆けである。しかし、2015年以降にリバイバルしたモデルを手に取ると、その印象はいわゆる“ラグスポ”とはいささか異なる。薄いケースと厚みを抑えた一体型ブレスレットがもたらすのは、スポーツウォッチのたくましさというよりも、ブレスレット付きのドレスウォッチと呼ぶべき慎ましさだろう。現行のロレアートも、そういった性格を忠実に引き継いでいる。もっとも、そこにエナメル文字盤を載せるのは一種の矛盾である。というのも、厚みが増せば、ロレアートの美点はたやすく失われてしまうからだ。

ロレアート ファーストモデル

ジラール・ペルゴが1975年に打ち出した「ロレアート」の初代モデル。

 しかし、ジラール・ペルゴにはそういった「無理」を可能にする背景がある。同社が属するソーウインドグループは、エナメル文字盤の製造者として名高いドンツェ・カドランを傘下に擁している。エナメルを外部に頼るメーカーであれば、予想される文字盤の厚みに外装を合わせるほかない。しかし、作り手が近くにいれば、外装と文字盤を同時に設計することができるだろう。エナメル文字盤にもかかわらず、10.68mmに収まったケース厚は、ソーウインドのグループ力なくして成立しなかったものだ。

 ちなみにロレアートにエナメル文字盤が載るのは。本作が初ではない。2025年には、青みがかったグレーの「ロレアート インフィニットグレー」が発表されている。ケースもムーブメントも本作と共通であり、エナメル文字盤のロレアートは、すでにひとつの系統をなしつつあると見ていい。

ジラール・ペルゴ,ロレアート インフィニットグレー

ジラール・ペルゴ「ロレアート インフィニットグレー」Ref.81010-11-3475-1CM
2025年、エナメル文字盤を携えて発表されたロレアート。自動巻き(Cal.GP01800)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SSケース(直径42mm、厚さ10.68mm)。100m防水。266万2000円(税込み)。

 うまいのはクラックへの対処作である。エナメル文字盤は押さえ方ひとつで割れるが、ロレアートは文字盤の外周にフランジを設け、それをベゼルとケースで挟む構造を採用する。エナメル面に直接応力を掛けず、しかも位置決めを確実にするための設計であり、ノウハウの蓄積があってこそ成立するものだろう。他社ではまず見られない、エナメル+“ラグスポ”という組み合わせが可能になった理由だ。

ジラール・ペルゴ ロレアート ターコイズブルー

ジラール・ペルゴ創業家一族のひとり、フランソワ・ペルゴが目にした横浜の海がモチーフとなったターコイズブルーのエナメル文字盤。

 文字盤は、サンレイモチーフを施した金属製ディスクに、エナメル層を重ねたもの。手法自体は、先行する「ロレアート 42mm エタニティ エディション」と同じである。下地のモチーフが細かくなるほど、エナメル内部の気泡は抜けにくくなる。本作でそれが目立たないのは、ドンツェ・カドランの腕が上がったためだろう。加えて、ターコイズブルーのような浅い色は、濃色に比べて焼き上がりのばらつきが表に出やすく、歩留まりは確実に悪くなる。それを承知で採用したところに、本作の魅力がある。光の加減によって色が変わるエナメルの魅力を、浅い色は一層引き立てている。

 ジラール・ペルゴは、今回ターコイズブルーを選んだ理由に「横浜の海」を挙げている。幕末に日本へ渡り、スイス時計の対日輸出に道を開いたフランソワ・ペルゴが目にした澄んだ青をモチーフに選んだとのこと。仕上がりが悪ければ説得力はないが、本作の鮮やかなエナメル文字盤は、こういったストーリーがなくとも十分魅力的である。

“本気”が光るエナメル文字盤を見よ!

 締まったパッケージと、魅力的なエナメル文字盤を持つ本作の価格は277万2000円(税込み)。内容を考えれば、かなり戦略的な数字と言っていい。加えて、搭載するCal.GP01800もかなり良い。厚さ3.97mmという薄型ながら約54時間のパワーリザーブを備えるだけでなく、ローターの回転音は小さく、主ゼンマイの巻き上げの感触も滑らかで、この価格帯にふさわしい仕立てだ。

Cal.GP01800

搭載されるムーブメントは2016年に誕生したCal.GP01800だ。トランスパレントバックとなっているため、ピンクゴールド製ローター、そしてコート・ド・ジュネーブやペルラージュ装飾が施されたブリッジを観賞することができる。

 ロレアートの魅力が、余計な作為を加えない点にあることは変わらない。本作もケース、ブレスレット、ムーブメントはそのままに、文字盤を鮮やかなエナメルに置き換えただけだ。しかし、エナメルを使った同種のモデルが存在しないことを思えば、そしてターコイズブルーのエナメル文字盤がほとんどないことを思えば、これは決して安易な限定モデルではないのである。ジラール・ペルゴの本気を思うべし、である。



Contact info:ソーウインド ジャパン ジラール・ペルゴ Tel.03-5211-1791


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