時計愛好家を魅了するジラール・ぺルゴ「ロレアート」。〝ラグスポ〟の定番モデルに隠された躍進の理由を解説

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2022.11.21

2016年に復活し、今やジラール・ペルゴを代表するコレクションのひとつへと成長した「ロレアート」。一時は表舞台から姿を消していたロレアートが、なぜここまでの支持を得られるようになったのか。鍵は「強力なデザインアイコン」と「優れた装着感」、そして「熟成した自社製ムーブメント」だ。

岡村昌宏:写真 Photographs by Masahiro Okamura
野島翼:文 Text by Tsubasa Nojima
2022年11月21日公開記事

ロレアート 42mm

ジラール・ペルゴ「ロレアート 42mm」
“ラグスポ”黎明期である1975年に登場したファーストモデルの意匠を色濃く受け継ぐモデル。汎用性の高いスポーティかつエレガントなデザインは、さまざまな層から支持を獲得し、今やジラール・ぺルゴを代表するコレクションのひとつとして知られるようになった。自動巻き(Cal.GP01800)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SS(直径42mm、厚さ10.68mm)。100m防水。179万3000円(税込み)。


ロレアートがブランド1の人気コレクションとなるまでの歴史

 老舗ウォッチメーカーとして知られるジラール・ぺルゴ。その起源はふたつの会社にさかのぼる。ひとつは、1791年にジャン=フランソワ・ボットがスイスのジュネーブに設立した時計工房。もうひとつは、それから半世紀以上が過ぎた1852年、コンスタン・ジラールがスイスのラ・ショー・ド・フォンに設立したジラール社だ。

 コンスタン・ジラールは、56年のマリー・ペルゴとの結婚を機に、社名をジラール・ペルゴに変更。ここで初めて、現在と同じ社名が登場することとなる。ふたつの会社はそれぞれの子孫に受け継がれ、やがてボットの設立した工房が1906年、ジラール・ペルゴに買収されたことで、今日の同社の基礎が完成した。

 ボットの工房設立から230年以上が経過していることからも分かる通り、同社の歴史は、懐中時計からクォーツウォッチへと変遷する時計史とともにあった。現在展開されている5つのコレクションは、どれもそのヘリテージを現代的に解釈した要素が含まれている。

 1867年のスリー・ゴールドブリッジ付きトゥールビヨンを搭載した伝説的な懐中時計に着想を得た「ブリッジ」、アールデコデザインと湾曲したレクタンギュラーケースを特徴とする「ヴィンテージ1945」、1960年代のクラシックスタイルを再解釈したラウンドウォッチ「1966」、オーバルケースのジュエリーウォッチ「キャッツアイ」、そして「ロレアート」だ。

ロレアート ケースサイド

円と八角形を重ねた特徴的なベゼルは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げを使い分けることでメリハリを利かせつつ、角を丁寧に丸めることによって、柔らかな印象をもたらしている。シームレスにつながるミドルケースとブレスレットは腕なじみが良く、装着感の向上に寄与している。

 ロレアートの誕生は75年。いわゆる第1世代のラグジュアリースポーツウォッチ(ラグスポ)として知られる、オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」(1972年)やパテック フィリップ「ノーチラス」(1976年)、ヴァシュロン・コンスタンタン「222」(1977年)と同年代にあたる。

 オリジナルのロレアートがこれらのモデルと大きく違っていたのは、薄型の機械式自動巻きムーブメントではなく、クォーツムーブメントを搭載していた点である。スイスでいち早くクォーツウォッチの量産に成功し、その高精度化を推進したジラール・ペルゴにとって、薄型ケースとスポーツウォッチ並みのスペックを両立するためのソリューションが、クォーツムーブメントの採用だったのだろう。

 機械式腕時計が再び脚光を浴び始めてしばらく経った95年以降には、機械式ムーブメントを搭載した第2世代のロレアートが登場。2003年にはモダンにアップデートされた第3世代が発表されたが、その魅力が評価される前にラインナップから姿を消してしまう。

 復活の契機は16年に訪れる。同社創業225周年を記念し、限定モデルとして発表された新型ロレアートが大きな反響を呼び、翌17年にはレギュラーコレクションとしてラインナップすることとなったのだ。繊細なドレスウォッチを主体とする同社のコレクションの中において一際汎用性の高いロレアートは、既存顧客だけではなく幅広い層からの支持を集め、一躍同社を代表するアイコンへと成長を遂げたのである。


ロレアート人気が加熱する3つの理由

 華々しい復活を遂げたロレアート。その人気の背景に“ラグスポ”ブームがあったことは間違いないだろう。しかし、単に「トレンドに合致したから」と片付けてしまうことは早計だ。ラグスポが一過性の流行からひとつのカテゴリーとして確立し、成熟しつつある今、強豪がひしめく中で生き残り続けることは容易ではない。ロレアートが支持を得られ続けているのは何故だろうか。現行の第4世代、その中で最もスタンダードな42mmケースの3針モデル「ロレアート 42mm」を例に、デザイン、装着感、ムーブメントという3つのポイントから考えていきたい。


強力なデザインアイコン

 ロレアートの魅力を語る上で欠かせないのが、そのアイコニックなデザインであろう。円と八角形を重ねたベゼル、クル・ド・パリ装飾が施されたダイアル、ケース一体となったブレスレットは誕生以来、現行モデルまで受け継がれ続ける意匠だ。ファーストモデルのデザイナーは、イタリア人建築家とされている。彼の出自を表すように、ベゼルは、イタリア フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の天蓋をモチーフとしている。

ロレアート 文字盤

ロレアートを象徴するクル・ド・パリ装飾のダイアル。プレス加工でありながらもしっかりと面が立ち、強い光源下での視認性を高めている。インデックスにしっかりとリーチする針は、時針と分針の長さにはっきりとした違いを設けることで高い判読性をもたらしている。スポーツウォッチらしく、スーパールミノバが暗所での視認性も高めてくれる。

 第4世代では、ディティールもグッと向上している。特筆すべきは、特徴的なデザインをより魅力的に見せる卓越した仕上げだ。ダイアルのシャープなクル・ド・パリ装飾は、全体に程よい緊張感を与えるとともに、光の反射を抑え視認性を確保するという本来の目的も達成している。ベゼルは手作業で磨き上げられ、サテンとポリッシュを使い分けることによって、立体的な表情を与えられている。ケースからブレスレットへも滑らかにつながり、エレガントなまとまりを見せる。

 砲弾型のインデックスやペンシル型の時分針は、スーパールミノバが塗布されることによって暗所での視認性も高められている。ファーストモデルではムーブメントの制約から針が細かったが、機械式ムーブメントの搭載は単なる趣味性の向上だけではなく、太くはっきりとした時分針の採用という実用性の向上ももたらしているのだ。

 ロレアートは、他の多くのアイコニックピースに共通する、長年受け継がれてきたタイムレスなデザインと、時代に即したアップデートをしっかりと持ち合わせているのである。


腕に沿う安定した装着感

 ブレスレットは、装着感に直結する大事な要素のひとつだ。ファーストモデルでは、多少のっぺりとしたデザインであったが、現行のブレスレットは、サテン仕上げのH型コマと、その中央に収まるポリッシュ仕上げのコマで構成され、見た目にも豊かな表情が与えられている。

ブレスレット

軽快な装着感をもたらすブレスレット。調整用のコマはネジで連結されているため、ピンが緩んで時計が脱落するようなことは発生しにくい。ベゼルと同様に、サテン仕上げとポリッシュ仕上げを使い分けることで立体感を与えられている。

 これらは剛性感を保ちつつも十分な可動域を確保しており、着用時にはしっとりと腕になじんでくれる。裏蓋は薄く、ミドルケースとブレスレットが一体化したラグのない形状のために腕から時計が浮くようなこともない。コマの角が落とされているため、手首に刺さるような不快感も抑えられ、両開き式のバックルは、エレガントさを一層高めるとともに、手首内側の圧迫感を軽減してくれる。

 また、それぞれの調整用のコマはネジによって連結されているため、不意に脱落するような事態も起こりにくい。長く使うものだからこそ、耐久性を高めた仕様であることは重要だ。

 いくらデザインが優れていたとしても、着用時にストレスが溜まるような時計はいずれ使われなくなるだろう。日常的に使うことを想定したラグスポだからこそ、装着感を軽視してはいけないのだ。


成熟したマニュファクチュールムーブメントを搭載

 ロレアート 42mmに搭載されているムーブメントは、Cal.GP01800だ。2016年に登場したこのムーブメントは、38mmケースの3針モデルに採用されているCal.GP03300よりも拡大された直径と、少し長めの約54時間のパワーリザーブを備えている。

 地板にはペルラージュ、受けとローターにはコート・ド・ジュネーブや面取りがしっかりと施されており、うっとりするような仕上げをケースバックから鑑賞することができる。強いて言えば、フリースプラングではなくエタクロン風の緩急針が装着されている点は、耐衝撃性を必要とするラグジュアリースポーツウォッチであることを考えると少し惜しいと感じる。

Cal.01800

ロレアート 42mmに搭載されるCal.01800。ケースバックから覗く、手作業による仕上げはもちろんのこと、ジラール・ぺルゴの豊富なノウハウが生かされた安定性の高さが魅力だ。

 ジラール・ペルゴと言えば、屈指のマニュファクチュールであり、そのムーブメントは設計から開発、製造までを自社で手掛けている。しかし、同社のマニュファクチュールとしての矜持は、製造した後の姿勢にも見ることができる。

 例えば、今なお同社の基幹ムーブメントとして活躍するCal.GP03300は、前身のCal.GP3100を含めると30年近く生産され続けているが、決して時代遅れではない。当初こそ、時分針の動き出しが遅れる“立ち遅れ”や針飛びといった、薄型ムーブメント故の弱点があったものの、それらを早期に克服し、更に実用性を高めるためにパーツの細部を改良し、巻き上げ効率や耐久性を絶えず向上させてきた。改良パーツは新作だけではなく、ユーザーから預かった修理品にも必要に応じて適用されている。

 Cal.GP01800も誕生から6年が経過し、熟成を重ねている。ベースとして、それまで同社が培ってきた豊富なノウハウが生かされていることは言うまでもないが、今後も人知れずアップデートを加えられ、ロングライフムーブメントとして第一線で活躍していくことだろう。

Contact info:ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791

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