伝説的な“初代グランドセイコー”を現代の実用機として復刻させた「SBGW259」をレビュー

FEATUREインプレッション
2023.04.03

約72時間のパワーリザーブを備える手巻きムーブメントを搭載

 本作に採用されているムーブメントは、グランドセイコー専用のキャリバー9S64だ。これは、自動巻き3針ムーブメントのキャリバー9S65をベースとして、手巻き専用に改めたものである。そのため、基本的なスペックはキャリバー9S65を踏襲しており、約72時間のロングパワーリザーブを備えている。

 シースルーバックから覗くムーブメントは、テンプを除くほとんどが受けに覆われ、輪列の全貌を見ることはできない。ただしその分、日本の高級時計らしい深く強いストライプ装飾の迫力を存分に堪能することができる。このストライプは、輪列を覆う受けとテンプを支える受けで連続するように施されており、見た目の統一感にも繋がっている。

 受けには、ブランドロゴと石数、精度調整された条件などの文字が配されている。これは、彫り込んだ後に塗料を流し込んだものだ。

シースルーバック

シースルーバックからは、ムーブメントを鑑賞することができる。厚みのある受けは、その堅牢性を物語る。深い面取りなどが与えられているわけではないが、ストライプ模様は強くはっきりと施され、刻印も深く刻まれている。

 ローターが無いことは、ケースの厚みを抑えることができる他にもメリットがある。受けが裏蓋ギリギリまで張り出し、かつローターが邪魔にならないために、ムーブメントを鑑賞しやすいということだ。

 堅牢性を重視したグランドセイコーらしく、受けにはしっかりとした厚みが確保されていることが分かる。これを見ると、グランドセイコー全般にある程度の厚みが出てしまうのも仕方のないことだと思えてくる。

 リュウズを操作して、ムーブメントの感触を試してみよう。主ゼンマイの巻上げは、カチカチとしっかりした手応えを感じさせる。ベースとなった自動巻きムーブメントのように、シャリシャリとした感触はない。

 一段引きで時刻調整をしてみる。針を進めてみたところ、重すぎず軽すぎず、狙ったところにしっかりと合わせることができた。戻す際にも同様に合わせやすかったが、指先には若干ゴリゴリとした感触が伝わる。

 シースルーバックの手巻き時計の醍醐味は、巻き上げながらムーブメントを鑑賞することができる点にあるのではないだろうか。完全に停止した状態から巻上げはじめ、やがてテンプが鼓動を始める瞬間や、コハゼがカクカクと動く様子と音は、所有者に得も言われぬ幸福感を与えてくれる。

 本作も例に漏れず、手巻きをすることの満足感を得られる時計であるが、コハゼが板バネではなく退却式であれば、さらに楽しめたことだろう。


グランドセイコーらしい実用性が光る、デイリーユースなドレスウォッチ

 実際に着用してみると、本作のキャラクターがより鮮明に見えてくる。ブリリアントハードチタン製ケースのために軽く、手巻きムーブメントを搭載しているために薄く仕上がった本作は、着用時のストレスがほとんどなかった。“着けていることを忘れるほど”とはこのことかと思わされたほどだ。

 加えて、視認性と判読性も非常に高い。インデックスと針はわずかな光を捉えて輝く。夜光が無いため、まったくの暗闇ではさすがに難しいが、住宅街の夜道くらいであれば容易に時刻を読み取ることができる。

Dバックル

三つ折れ式のDバックルが取り付けられている。押し込むだけで着用でき、腕から外す際には、サイドのプッシュボタンを押下するだけである。しっかりとした厚みを持っており、些細なことで壊れてしまうようなことはないだろうが、その分デスクワークでは少々煩わしく感じることがあった。

 シンプルなデザインだが単調ではない点にも言及しておきたい。グランドセイコーブルーのダイアルは、その場その場の光源によって、さまざまに表情を変える。明るい陽射しの下であればロイヤルブルーのように見え、薄暗い室内ではブラックに近い濃紺となる。色々な場所に着けていき、その変化を楽しむことができるのは、所有者の特権だ。

 そんな本作でも、やはり最も似合うのはフォーマルシーンやビジネスシーンだろう。清潔感に溢れる嫌味の無いデザインでありながら、職人がザラツ研磨によって作り出した鏡面が、時折光を上品に反射する。ステッチのないアリゲーターストラップは、かっちりとした場にも馴染む。

 着用していて気になったポイントを挙げるとすれば、Dバックルに厚みがあり、パソコン作業時に少し煩わしく感じたことくらいだろう。簡単に着脱できるため、作業時には脇に置いておけば済むことだが、全体的にドレッシーに仕立てられた時計であるため、オリジナルを踏襲したピンバックルでも良かったのではないかと感じる。


レトロやノスタルジックではない。クラシックな魅力にあふれる復刻デザイン

 本作を最初に持ったとき、筆者が約10年前に使っていた、ヴィンテージのセイコー「クラウン」が脳裏をよぎった。薄いベゼルに大きく広がったダイアル、手にして感じる軽量感が、記憶の中と近しいものだったのだろう。

 もちろん、グランドセイコーとクラウンは別物だが、恐らく本作は、デザインとして似ているだけではなく、全体の醸し出す雰囲気もオリジナルに近似しているのではないだろうか。

 類似したディテールを積み重ねれば、必ずしも全体として似てくるというわけではない。ディテール同士がバランスよく積み重ねられ、その調和の果てに生まれる雰囲気が似ていると言えば良いのだろうか。

 しかしながら、本作に古めかしいような印象は一切ない。初代グランドセイコー自体が流行り廃りとは無縁の普遍的な魅力を与えられていたということもあるだろうが、インデックスや針、ケースに施されたシャープな研磨がモダンな印象を作り出しているからだろう。

 ムーブメントも現代のグランドセイコーとして標準的なスペックを持ち、堅牢性にも優れている。懐古的ではなく、古典的という言葉がふさわしい。

 1960年、世界に追い付け追い越せと奮闘した先人たちの想いが結実した初代グランドセイコー。まさに本作は、その伝説的な腕時計を普段使いするという夢を叶えてくれるものなのである。

 今やグランドセイコーは、セイコーから独立し、海外でもメジャーなブランドとして認知されるに至った。それだけではなく、コンプリケーションウォッチをも生み出し、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)では、これまで通算3度の受賞を通し、その技術力を世界に知らしめた。

 約60年前に願いを託され芽吹いた一粒の種は、大きな花園となって世界を魅了している。


Contact info: グランドセイコー専用ダイヤル Tel.0120-302-617


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