今年、発表から30周年を迎えた「ザ・シチズン」。シチズンならではの実用時計として生まれたこのコレクションは、2005年以降、同社のフラッグシップと位置づけられるようになった。しかしながら、高精度や実用性、そして十分なアフターケアといった特徴はこの30年、何ひとつ変わっていない。そのユニークなキャラクターから透けるのは、シチズンの歩みそのものだ。
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Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas), Ryotaro Horiuchi
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]
THE CITIZEN ECO-DRIVE with Annual Accuracy of ±5 Seconds
年差±5秒を掲げる藍染ダイアルのスタンダード
現時点における、エコ・ドライブ搭載機の完成形。ザ・シチズンの美点である実用性はそのままに、文字盤の質感を一層高めている。年差±5秒以内。光発電エコ・ドライブ(Cal.A060)。スーパーチタニウムケース(直径40mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。44万円(税込み)。
2017年以降、和紙をあしらった文字盤を使うようになったザ・シチズン。理由は先述したとおり、ポリカーボネート文字盤の透過性を保ちつつ。フラッグシップにふさわしい質感を加えるためだ。その最新作が、「ザ・シチズン 藍染和紙文字板モデル」である。「天然灰汁発酵建て」という手法で和紙を染め、毛羽立ちを取った後、専用の基材に貼り付ける。その繊細な模様は、上にポリカーボネートの文字盤が重ねられていることを全く感じさせない。
運針トルクを増やすと消費電力は増えるが、現行のザ・シチズンが搭載する針は、機械式時計並みに太くて長い。そのため、現行のエコ・ドライブ搭載機は、様々なケースバリエーションを持てるようになった。見返しを強調し、リュウズガードを設けた本作のデザインは、その好例と言えるだろう。そして外装は、表面に硬化処理のデュラテクトを加えたスーパーチタニウムだ。純チタンにプラチナのIPを施すことで、ステンレススティールより40%も軽いのに、表面硬度は5倍もあるため、実用時計にはうってつけだ。
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正直、大きく質感を高めた最新のザ・シチズンに、素っ気ない仕立てを持つ95年モデルの面影を見出すのは難しい。時計として見ると、両者は明らかに別物だ。しかしながら、高精度なムーブメントやユーザーフレンドリーな機能、アレルギーの起こりにくい外装に、10年間の保証(MY CITIZEN シチズンオーナーズクラブの場合)といった特徴は、実のところ、以前と何も変わっていないのだ。
今や裏蓋に輝くのは、高精度の証しであるイーグルマークだ。しかし、その時計に“Close to the Hearts of People Everywhere”というモットーを見るのは筆者だけではないはずだ。たとえプレゼンスが大きく変わろうとも、人々のために、という非凡な志は、現行の各モデルにも、今なお生き続けている。





