カレンダー機構 第1回「カレンダー時計」

FEATURE時計機構論
2019.05.05
菅原 茂:文
Text by Shigeru Sugawara

 カレンダーやダイアリーを2019年版に取り替えると、この先の1年を想像して新鮮な気分になるものだ。日常的に使う腕時計にもカレンダーの表示機能を組み込んだものが非常に多いが、それが時計の付加機能として姿を現すのはかなり古く、原型は16世紀の頃にまで遡るという。ただし、あくまでもヨーロッパにおける時計の歴史や文化に即した話であることをまずことわっておく。文化が異なれば、また話は別になるからだ。さて、この16世紀といえば、カレンダーにとって非常に重要な時期に当たる。現在世界で広く使われている太陽暦の「グレゴリオ暦」がローマ教皇グレゴリウス13世によって制定されたのが、西暦1582年のことだったからだ。ローマ時代に作られたユリウス暦を修正し、実際の太陽年とのずれを縮めて精密化を図ったグレゴリオ暦のカレンダー・システムでは、1年の平均日数はユリウス暦の365日から365.2425日へと一段と細かく規定され、そしてここが最大のポイントなのだが、閏年の扱いに新しいルールが導入されたのである。

 グレゴリオ暦では、4年ごとに閏年を設けるのは従来通りだが、新たに西暦の年数が100で割り切れるが、400では割り切れない年は閏年ではなく平年と定められた。以来ヨーロッパでは、フランス革命時に一時期採用された特殊な暦を例外とすれば、グレゴリオ暦が標準になり、今年ですでに435年もこの暦を使ってきた。西欧中心に発展してきた時計のカレンダー機能も、まさにこのグレゴリオ暦と歩みをともにしてきのである。

 18世紀末から20世紀初頭までの懐中時計では、日付や曜日表示などから、後に詳しく述べる高度な複雑機構の「永久カレンダー」に至るまで、現在知られるあらゆるタイプが登場し、やがて20世紀に誕生した実用腕時計にも、カレンダー機構が取り入れられるようになった。手首に装着でき、時刻が素早く読み取れる利便性が何よりメリットの腕時計にとって、カレンダー表示はその魅力を高める重要な要素であったのは間違いない。