カレンダー機構 「年次カレンダー」とは

FEATURE時計機構論
2022.03.16

菅原 茂:文
Text by Shigeru Sugawara
(2017年 公開記事)

 英語で「アニュアルカレンダー」と呼ばれることも多い「年次カレンダー」も、今やカレンダー機構の中で重要なジャンルを築くまでになった。それは、1年に1回、3月1日に調整するだけで翌年2月の月末まで、毎日の日付、曜日、月名を自動表示する非常に便利な機構である。その先鞭をつけたパテック フィリップは、この「年次カレンダー機構」の開発に約4年を費やし、1996年特許を取得。同年に最初のモデルを発表した。カレンダー機構としてはまだ約20年という比較的新しい部類に入るが、現代人のライフスタイルに合った、その使いやすさは抜群である。

 何度も繰り返すが、腕時計に組み込まれたごく一般的なカレンダー表示は、実際のカレンダーに存在する不規則に対応できないので、年に何度も人為的な修正が必要である。高度な自動修正機能を有する永久カレンダーなら、そうした手間を省いてくれるが、なかなか高価で近づき難いのもまた事実である。パテック フィリップが着目したのは、ユーザーの使い勝手だった。1年に一度の修正で済む「年次カレンダー」は、通常のカレンダーと永久カレンダーとの間を埋めるための新技術でもあった。 

パテック フィリップ
パテック フィリップが特許を取得した年次カレンダー搭載モデルには、1996年の発表以来いくつかのタイプが存在する。「年次カレンダー5396モデル」は、12時位置に曜日と月名の表示窓が並ぶ“ダブル・ギッシェ”、6時位置に日付表示窓と24時間表示サブダイアル、ムーンフェイズを配置。写真は2016年発表の現行品。

「年次カレンダー」の技術的な特徴は、従来のカレンダー表示に使用される日付の先送り機構に変わって、特殊な歯車を主体とするロータリー方式のコンポーネントを採用している点だ。永久カレンダーの場合もそうであるように、まず日付表示にとって、各月が何日かを判別することが重要であり、日付変更機構で30日と31日を識別するための特殊なカムがその役割を演じている。1年で1回転するこのカムには2月、4月、6月、9月、11月という5つの小の月に対応する突起が設けられていて、例えば小の月に当たる4月が終わりに近づくと、このカムが日付送りの歯車と連動するようになり、30日の終わりに次の31日を飛ばして5月1日へと先送りする仕組みなっている。しかし、30日と31日の不規則な並びには賢く対応できても、2月の月末にはそうはいかない。平年なら28日で終わり、閏年なら29日をいう1日が追加されるからだ。これも調整可能なら、まさに永久カレンダーになるところだが、「年次カレンダー」ではそこまでは行わないから、リュウズもしくは調整ボタンを操作して2日ないし3日進めて3月1日に修正する必要がある。年に一度の修正だから、簡単で煩わしさを感じることもないはずだ。

 パテック フィリップは、1996年のファーストモデルRef.5035以来、各種の「年次カレンダー」搭載モデルを発表し、大きなコレクションを形成するまでになった。そのいくつかのモデルにはムーンフェイズを取り囲んで24時間表示があるが、これは一種のデイ/ナイト・インジケーターとも解釈できる。つまり「年次カレンダー」によるカレンダー表示が誤って昼の12時に切り替わらないように、使用の際の調整を注意するものだ。ここにもユーザーの使い勝手を考慮した工夫が見られる。