巻き上げ機構 「自動巻き」

FEATURE時計機構論
2019.07.08

カール F.ブヘラ
2008年に単体で発表された自社ムーブメントCFB A1000は、外周に配されたリング状のペリフェラルローターが最大の特徴で、自動巻きの機能と手巻きの外観を併せ持つ。写真は、2009年発売の「パトラビ エボテック デイデイト」と搭載キャリバーのCFB A1001。33石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。


 現在の機械式時計の多くがシースルバックなので、透明なケースバックから露わに見えるムーブメントの姿も、美観を左右する重要な要件になっている。裏面がすべて見渡せるのは、手巻きムーブメントの良さである。一般的なセンターローター自動巻きだと、ローターが邪魔して景観の半分は遮られてしまう。ムーブメントにローターが格納されるマイクロローターの場合は、遮られる部分はなく、見た目は手巻きにほぼ等しい。

 さて自動巻きローターには忘れてはならないもう一つのタイプがある。「ペリフェラルローター」と呼ばれるものだ。ペリフェラルとは周辺という意味。文字通りムーブメントの外周部に、回転の中心軸を持たないリング状のローターを配置し、その力で主ゼンマイを巻き上げるという仕組み。リングがムーブメントに被さらず、リングの内側も完全に抜けているので、手巻きと同様の薄さと外観を実現することができるという利点がある。

 日本のシチズンも同様の発想による自動巻き機構「外周式ボールベアリングローター」を開発して1961年に「シチズンジェット」に搭載したことがあった。スイスでは、パテック フィリップが1960年代(あるいは1970年)に薄型を追求したペリフェラルローター自動巻きムーブメント発表したが、性能が不十分だったのか、これもあとが続かなかった。優れた性能をもった現代のペリフェラルローター自動巻きムーブメントが登場するのは2008年。スイスのカール F. ブヘラが「パトラビ エボテック」に搭載した自社製キャリバーCFB A1000だ。

 他にも最近では、ペリヘラルローターの利点を生かして、トゥールビヨンの眺めを遮ることなく、薄型で自動巻きという課題をクリアしたハイエンドモデルがいつくか登場している。ブレゲ「クラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5377」(2013年)、ジャガー・ルクルト「マスター・ウルトラスリム・ミニッツリピーター・フライングトゥールビヨン」(2014年)、オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク オフショア トゥールビヨン・クロノグラフ」(2015年)などである。