「風、薫る」出演の北村一輝が着用する「沈黙の時計」とは?

公開後も好調な動員が続く映画「ゴールデンカムイ~網走監獄襲撃編~」。今作では監獄長・犬童四郎助として物語の核心に迫る北村一輝が、また圧倒的な存在感を放っている。狂気的とも言える役作りへの執念で唯一無二のポジションを築いてきた実力派俳優は、NHK連続テレビ小説「風、薫る」でも新たな顔を見せる。そんな彼のインスタグラムで、ミステリアスな腕時計との1枚を発見した。

北村一輝

写真:2019 TIFF/アフロ
2019年11月4日、第32回東京国際映画祭に、斎藤工監督のホラー作品『フォークロア TATAMI』の主演俳優として登壇した北村一輝。
沼本有佳子:文
Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
[2026年4月5日掲載記事]

「ゴールデンカムイ」シリーズの山場を彩る悪役。監獄長・犬童四郎助

 公開後も動員を着実に積み上げ、ファンを熱狂させ続ける映画『ゴールデンカムイ~網走監獄襲撃編~』。明治末期の北海道を舞台に、隠された莫大な金塊をめぐって個性豊かなキャラクターたちが激突する歴史アドベンチャーの最新作だ。今作もまた、劇場を出た後も余韻が消えない濃密な1編に仕上がった。

 物語が大きな山場を迎える今編で、キーパーソンのひとりとなるのが、北村一輝だ。彼が演じるのは監獄長(典獄)・犬童四郎助。金と武器を集めるためなら手段を選ばない冷酷な悪役に徹したキャラクターで、宿敵・土方歳三との緊迫のバトルシーンの撮影地は、作品ファンの間ですでに“聖地”とも称されるほど。抑制の効いた静かな存在感の奥に、いつ牙をむくかわからない危うさを宿し、北村一輝が画面に登場しただけで空気が変わる。その独特の凄みと怖さが加わり、物語はさらなる高みへと達している。


加減も知らず、思いつくすべてを試した……俳優・北村一輝の軌跡

 1969年7月17日生まれ、大阪府出身。現在56歳の北村一輝は、1990年にドラマ出演でキャリアをスタートさせた。デビュー後はなかなか役をもらえない時期が長く続いたと明かしているが、その間も途切れることなく積み上げてきた役作りへの執念が、今の唯一無二の存在感を作り上げた。

 そのエピソードはどれも強烈だ。ゲイバーのママを演じるために資金もないまま新宿2丁目の通りに何週間も立ち続け、声をかけてくれた方の好意に甘えてゲイバーに連れて行ってもらい、取材を重ねたこともあるという。チンピラ役では前歯4本を含む合計9本の歯を抜き、さらに4本を削るという常軌を逸した決断さえ下した。

「とにかく作品を観に来るお客さんや現場に役者として強く記憶してもらうため、加減も知らず自分なりに思いつくすべてのことを試してみる形で役作りをしていた」——そう振り返る言葉には、若き日の必死さと役への真摯な向き合い方が滲み出ている。英語習得のために外国人数人とルームシェアを経験し、日本舞踊、乗馬、空手、水泳まで幅広い分野に次々と挑んできたのも、すべては役のためだ。

 直近では、3月30日にスタートしたばかりのNHK連続テレビ小説「風、薫る」にも出演中だ。明治初期の栃木・東京を舞台に、日本初の正規訓練を受けた看護師・一ノ瀬りんの父である信右衛門を演じている。優しく穏やかで物分かりのいい「理想的な父親」というキャラクターは、これまでの北村一輝像とは一転した変化球だ。SNSでは「クズ役じゃない北村一輝が新鮮すぎて無意識に勘ぐる」「朝ドラ『スカーレット』の常治のイメージが抜けなくて警戒してしまう」などのコメントが続出しており、過去の役が視聴者の記憶にいかに深く刻まれているかを物語っている。


秒針だけが時を刻み、時間の呪縛から解き放つ1本

 そんな北村一輝のインスタグラムを眺めていると、腕時計を着用した1枚の写真が目に留まった。撮影現場の合間と思しきそのひとコマに、ミステリアスな雰囲気をまとった時計がさりげなく映り込んでいた。


2023年5月25日のインスタグラム投稿。撮影の合間に「空き時間、すぐに睡魔がやってくる。集中」のコメントとともに投稿された。

 北村一輝が着用するのは、フランク ミュラー「トノウ カーベックス シークレットアワーズ」Ref.7880SEH1 OGだ。3時位置のリュウズとは別に9時位置にプッシュボタンが備わり、普段は時分針が12時位置に静止したまま、秒針だけが粛々と時を刻み続ける。時刻を知りたいときにそのボタンを押すと瞬時に現在時刻を表示してくれる——そんな遊び心あふれる複雑機構を搭載した1本だ。

 このモデルでフランク ミュラーが掲げたのは、「時間の概念は人間が定義づけた規律であり、本来は自由であるべき存在だ」という考えだ。しかし現代社会において時刻を知ることは必要不可欠でもある。

 その現実と理想の両方を体現するために2006年に誕生したのが「シークレットアワーズ」であり、できる限り主観的な時間を生きたいと願う人々に、今なお寄り添い続けている。そう、自ら時を知ろうとしない限り、沈黙し続ける時計なのだ。

 時間を忘れるほど役に没頭してきた北村一輝の生き方と、時間から人を解放しようとするこの時計の哲学は、どこか深いところで共鳴し合っているように思えてならない。

トノウ カーベックス シークレットアワーズ

フランク ミュラー「トノウ カーベックス シークレットアワーズ」Ref.7880SEH1 5N。
自動巻き。2万8800振動/時。34石。パワーリザーブ42時間。18KPGケース(横36mm×縦50.4mm)。手縫いのクロコダイルストラップ。715万円(税込み)。※参考品(北村一輝着用モデルと同モデルの素材違い)


年齢を重ねるほどに、深みを増す存在

 40代半ばまで「すべての物事を全力でやること自体に価値を感じていた」と語っていた北村一輝だが、近年、その“全力”の向かう先が少しずつ変わり始めているようだ。駅前のパソコン教室でエクセルや動画編集を習い始め、カレー店の事業にも着手。かつて趣味で続けていた家具作りへの復帰も口にしているという。あれほど役に全身全霊を傾けてきた人物が、今は生活の手触りのようなものを大切にし始めているのだとしたら、それもまた北村一輝らしい変化なのかもしれない。

 振り返れば、なかなか役をもらえなかった無名の時代から、歯を9本抜いた役者として広く知られるようになるまで、北村一輝は一度として器用な道を選んでこなかった。だからこそ50代後半を迎えた今、画面に姿を現しただけで場の空気が変わる、そういう俳優になれたのではないだろうか。強烈な悪役の記憶が視聴者の脳裏に残り続け、穏やかな父親役を演じていても「勘ぐる」と視聴者に言わしめる。それは紛れもなく、一流のキャリアがもたらす豊かな余韻だ。

 「60代でもう一度攻めたい」とかつてインタビューで語ったその眼差しには、年齢に臆する気配がまるでない。役のために時間を忘れて没頭し、興味の赴くままに生きてきた姿は、時間の規律から自由であろうとするフランク ミュラーの哲学と、改めて深く重なって見える。ミステリアスな風貌の奥に宿る、尽きることのない探求心。俳優・北村一輝の真骨頂は、これからもさらに輝きを増していくはずだ。


Contact info:フランク ミュラー ウォッチランド東京 Tel.03-3549-1949



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