2026年の新作のうち、セラミックスを“巧み”に用いた傑作5モデルを紹介する。軽量で耐傷性が高く、ポリッシュ仕上げでは特有の艶感を持つことが魅力のセラミックスは、スポーティーなモデルからエレガントなモデルまで、高級時計に幅広く取り入れられるようになってきた素材である。本記事では、セラミックスの採用箇所とその効果、仕上げなどに注目して解説しつつ、注目モデルを紹介する。

Text by Shin-ichi Sato
[2026年4月25日公開記事]
現代の高級時計に欠かせないセラミックスに注目
今回は、2026年の新作のうち、セラミックスを巧みに用いたモデルに注目する。時計に用いられるセラミックスとは、その多くが酸化ジルコニウムの微粉末に安定化剤や顔料を加えて成形し、高温で焼結したものである。その配合には各ブランドの秘密のレシピがあり、表情や発色が技術の見せどころだ。また、素材由来の特有のツヤ感があり、耐傷性の高さから、そのツヤを維持しやすい特性もあり、そこに施す仕上げも見どころである。セラミックスが広く採用される理由は、その美観だけではなく、軽量であることも重要な要素で、モダンなスポーティーモデルを軽く仕立てる際に有力な選択肢となっている。
このように、現代の高級時計で重要な位置にあるセラミックスに注目し、その使い方が巧みな傑作5本を紹介してゆこう。
ウブロ「ビッグ・バン リローテッド」Ref.421.EX.5129.NR.RLD
最初に取り上げるのは、セラミックスをはじめとした素材技術に優れるウブロの新作「ビッグ・バン リローデッド」である。本作は、オープンワークが施された文字盤を持つ「ビッグ・バン ウニコ」の次世代機にあたり、初代モデルの美学を継承しつつ、ウブロの哲学である「アート・オブ・フュージョン」を体現する異素材の組み合わせが採用されている。

新作のビッグ・バン リローデットのなかで注目はブルーモデルだ。ケースに用いられているセラミックスは、従来よりも硬度を高めたフルカラーハイテクセラミックスとなっており、発色が良く、彩度の高いブルーが楽しめる点が特徴だ。高い耐傷性も期待できることだろう。全体にヘアライン仕上げ、面取り部にはポリッシュが施されており、立体感を際立たせている点も見どころだ。
ベゼルはチタン製であり、メタリックな質感や、エッジ部のチタンのカラーといった表情を加えることで、アート・オブ・フュージョンを表現している。また、靭性の低いセラミックスと、靭性の高いチタンという性質の異なる素材を部位ごとに使い分け、全体の堅牢性を高める効果を狙っていると考えてよさそうだ。
搭載されるのは、従来モデルに引き続き自社製ムーブメントCal.HUB 1280となるが、文字盤デザインとムーブメントの装飾の変更によって、装いが新たになっている。6時位置のコラムホイールや、8時位置のバックラッシュ抑制水平クラッチにカラーリングが盛り込まれ、これらの作動を際立たせる仕立てとなっているのだ。このデザインは、ウニコの特許技術を際立たせるという狙いもある。

自動巻き(Cal.HUB 1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径44mm、厚さ14.50mm)。100m防水。324万5000円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
IWC「インヂュニア・オートマティック 42」Ref.IW338902
IWCも、セラミックスを巧みに使うブランドのひとつだ。今年のIWCは、世界初の商用宇宙ステーションでの採用に向けて公式認定を取得した「パイロット・ウォッチ・ベンチュラー・バーティカル・ドライブ」など、セラミックスを使った注目作を数多く並べている。その中でも今回取り上げるのは、グリーンのセラミックスで作られた「インヂュニア・オートマティック 42」である。

セラミックス技術に長けたIWCであるが、セラミックス製ブレスレットの採用事例は多くなく、本作は、2025年発表のインヂュニア・オートマティック 42のブラックセラミックスモデル(Ref.IW338903)に続くものである。新作のRef.IW338902は、ダークオリーブグリーンカラーのセラミックスを、ケースやベゼル、ブレスレットと時計全体に採用しており、リュウズ、ベゼルを留めるネジ、時分秒針やインデックスにゴールドカラーを配して、シックでエレガントなスタイリングを実現している。
また本作は、セラミックス製でありながら従来のステンレススティールモデルと同様のプロポーションと、10気圧防水を両立している。セラミックスは焼成の過程で約30%収縮するため、精密さが必要な時計ケースやブレスレットにセラミックスを採用する際には、収縮の特性を十分に見極めた設計が必要となる。
本作ではさらに、ムーブメントのコンテナが不要となるマルチパーツ構造を採用するほか、サファイアクリスタルガラスとガスケットをケースや裏蓋リングに直接押し込むなど、セラミックス化に対応するための構造の見直しが行われている。これらの成果が、本作のスタイリングと防水性能として結実しているのだ。

自動巻き(Cal.82110)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックケース(直径42mm、厚さ11.5mm)。10気圧防水。352万3300円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
チューダー「ブラックベイ セラミック」Ref.7941A1ACNU-0001
次に取り上げるチューダー「ブラックベイ セラミック」Ref.7941A1ACNU-0001も、オールセラミックスの傑作である。これまでチューダーは、コレクションの中核となる「ブラックベイ」にセラミックスモデルをラインナップしてきた。その最新作となる本作は、セラミックス製ブレスレットを採用したオールブラックモデルとなる。

デザインは、セラミックスの質感を取り入れたブラック・オン・ブラックのコーディネートが特徴だ。ケースはブラックのモノブロックセラミックス製で、マットなサンドブラスト仕上げを基調として、面取り部にはポリッシュ仕上げを施す。回転ベゼルのインサートには、サンレイサテン仕上げのブラックセラミックスを採用する。また、漆黒のデザインを崩さぬように、文字盤のアプライドアワーマーカーにもダークな蓄光塗料をあしらっている。
本作のトピックスはブレスレットへのセラミックスの採用で、新設計のセラミックス製クラスプが組み合わされている。このような構成により軽量化を実現し、着用感を向上させている点は、店頭での要チェックポイントとなるだろう。
本作の実用性をさらに押し上げるのは、METAS(スイス連邦計量・認定局)によるマスター クロノメーター認定ムーブメントのCal.MT5602-Uの採用だ。厳しい磁場の環境の下やパワーリザーブ残量の少ない状態においても、精度を維持することが検査されており、本作は現代基準で最高レベルの実用性を備えると評価して良いだろう。

自動巻き(Cal.MT5602-U)。25石。パワーリザーブ約70時間。セラミックケース(直径41mm、厚さ13.55mm)。200m防水。107万300円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
H.モーザー「ストリームライナー・トゥールビヨン コンセプト セラミック」Ref.6805-2100
セラミックス製モデルの新作で忘れてならないのは、H.モーザーの「ストリームライナー・トゥールビヨン コンセプト セラミック」である。H.モーザーの公式サイトでは“Meet our first-ever ceramic creation”という文章から本作の説明を始めており、意外なことに本作はH.モーザー初のセラミックモデルであるのだ。

ベースとなる「ストリームライナー」は、H.モーザー初のスポーツコレクションとして2020年にデビューしたコレクションである。そのデザインは、1920~1930年代に活躍した高速鉄道から着想を得ており、流麗な曲線のラインが特徴だ。デビュー後は、フライバッククロノグラフをはじめ、ミニッツリピーターモデルやスケルトンモデルなど、多様なラインナップ展開がなされている。また、デビュー当初から、ブレスレットの完成度と、そのブレスレットが生み出す着用感の良さが高く評価されていることも特徴である。
さて、新作のストリームライナー・トゥールビヨン コンセプト セラミックは、曲線で構成されたケースと、評価の高いブレスレットのデザインを、アンスラサイトグレーのセラミックスで製作している。ケースは、従来モデル同様の曲線に沿った放射状のヘアライン仕上げが施され、ブレスレットの表面は縦方向のヘアライン仕上げ、ケースのエッジやリンクの接続部にはポリッシュが施されている。アンスラサイトグレーによって引き締まった色調で、ここに仕上げの使い分けによるコントラストや立体感が加わって、完成度が高い。
文字盤は、H.モーザーが得意とするグラン フー エナメルを用いたレッドフュメ仕上げで、槌目をホワイトゴールド製のベースに施していることで、濃淡による奥行き感のある表情を備える。6時位置には、有機的な文字盤とは対照的な精緻なフライングトゥールビヨンが収まっている。

自動巻き(Cal.HMC 805)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径40mm、厚さ12.8mm)。12気圧防水。1840万3000円(税込み)。(問)H.モーザージャパン株式会社 Tel.03-6807-5880
ロレックス「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」Ref.126502
最後に取り上げるのは、ロレックス「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」(以下、デイトナ)である。最新作となるRef.126502の最大の特徴は、高温での焼成が必要なグラン フー エナメル文字盤を採用している点だ。時計業界全体ではプレミアムな素材として認知度が高いエナメルであるが、ロレックスでの採用事例は多くない。本作はインダイアルのスケールもホワイトで、ホワイトのワントーンのコーディネートとなっており、特有の上品なツヤがエレガントさを醸し出している。また、エナメル特有のふっくらとした表情を持つ本作は、従来のロレックスが、どのようなモデルでも隙のない、切れ味のある仕上げを選ぶ傾向にあることを考えると、他にはない魅力を持つと言えるだろう。

さて、「“焼成する”のでグラン フー エナメルも広義のセラミックス」というのが、本作を選んだ理由ではない。注目はベゼルである。ロレックスは、セラミックスをベゼルインサートに用いた「セラクロムベゼル」を多くのモデルに採用しており、デイトナに注目すれば、一部の貴金属モデルを皮切りに2011年から採用されてきた。セラクロムベゼルの発色は優れており、素材のカラーで実現したツートンカラーの完成度は高く評価されている。
ロレックスは、レッドやブルーなど、カラフルなセラクロムベゼルを作る技術を持ちながら、デイトナにおいては、プラチナ製モデルなどの例外を除いてブラックを一貫して採用してきた。これは、過去のアイコニックなモデルへのリスペクトや、タキメーターの視認性の確保が理由だろう。しかし新作のRef.126502では、わずかに明るいアンスラサイトグレーを採用している。また、素材としてタングステンカーバイドを添加したジルコニアが新たに採用された。ブラックカラーは視覚的なインパクトが強くなりすぎる傾向があるため、柔らかな文字盤の表情に合わせて調色されたのではないだろうか。特別な文字盤を持つ本作に組み合わされた特別な色調は、注目すべきポイントと言える。

自動巻き(Cal.4131)。47石。28800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS×Ptケース(直径40mm)。100m防水。




