2026年の新作のうち、注目すべきクロノグラフモデルを紹介する。短時間を正確に測り取ることに適した機構であるクロノグラフは、産業、運輸、軍事、スポーツなど、幅広く活用され、それぞれとの結びつきの強いモデルが多く生まれた歴史を持つ。また、操作によって、輪列や針、クラッチがダイナミックに動くことから、機械の面白さを訴求するモデルとして人気がある。今回取り上げる傑作5本はいずれも個性的であり、それらの機構やデザインの特徴を解説しながら、各モデルの魅力を紹介する。
Text by Shin-ichi Sato
[2026年4月26日公開記事]
幅広いジャンルで進化を続けるクロノグラフの傑作選
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026で発表されたクロノグラフの傑作時計を5本選んで紹介する。毎年、数多くの新作が発表されるジャンルであるが、本年もクロノグラフとの結びつきが深いモータースポーツや航空機パイロット向けの新作のほか、ヨットレースに特化したモデルなどが並んだ。また、操作によって機構や針がダイナミックに動くことから、機械の面白さを訴求するモデルとしても人気がある。そこで、2026年の新作の中から、個性的な傑作5本をピックアップし、それらの機構やデザインの特徴と、それぞれの魅力を解説する。
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モナコ エバーグラフ」

自動巻き(Cal.TH80-00)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径40mm)。100m防水。493万9000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7054
最初に取り上げるべきは、クロノグラフ機構全体を再解釈し、核となる部品を新たな仕組みへと置き換えたタグ・ホイヤーの「タグ・ホイヤー モナコ エバーグラフ」である。タグ・ホイヤーはクロノグラフの歴史と深い関わりがあり、技術革新にも大きく貢献してきたブランドである。そんなタグ・ホイヤーが発表したのが、新開発のCal.TH80-00と、コンプライアント クロノグラフなる機構だ。
この機構は、これまでスタート、ストップ、リセットといった各機能にとって不可欠であるレバーやバネのほぼ全てを排除している点が最大の特徴だ。これらの代わりに、タグ・ホイヤーはLIGAテクノロジーによる「双安定部品」を開発。Cal.TH80-00ではスタートとストップのためにひとつ、リセットのためにひとつの、計ふたつの双安定部品を搭載することで、従来同様の機能を実現している。

新作のタグ・ホイヤー モナコ エバーグラフは、スクエアケースに3時位置のリュウズというモナコのアイコニックなスタイリングを継承しており、ケースと呼応するスクエアのサブダイアルという文字盤デザインとなっている。
Cal.TH80-00のデザインは、香箱や輪列、テンプと脱進機といった機構を文字盤側に配する反転構造とオープンワークを採用しており、クリアなサファイアクリスタル製文字盤の本作では、ムーブメントの作動を隅々まで鑑賞可能である。そのほか、ムーブメントのデザインに着目すると、自動巻きローターは、タグ・ホイヤーのアイコンである盾をかたどったものであり、その背景のプレートには、多くのモデルで取り入れられているチェッカーフラッグ模様が施される。
ロレックス「オイスター パーペチュアル ヨットマスター II」

自動巻き(Cal.4162)。47石。28800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径44mm)。100m防水。
ロレックスは、「オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ」という偉大なクロノグラフモデルを擁するが、今回取り上げるのは、もうひとつのクロノグラフの「オイスター パーペチュアル ヨットマスター II(以下ヨットマスターII)」だ。ヨットマスターIIはボートレース用のレガッタクロノグラフに分類されるモデルで、従来モデルは2024年に製造を終了していたが、今般、デザインとムーブメントを刷新して復活を遂げた。
刷新されたヨットマスター IIの機能や操作について述べる前に、ヨットレースの特徴を説明しよう。ヨットは陸上のレースのように留まることが難しいため、ヨットレースでは基準時刻以降にスタートラインを超えるルールとなっている。そのため、スタートまでの間に少しずつ動きながらスタートラインに接近し、より有利なポジションを確保しつつ、スタートの瞬間にスピードを上げた状態としておくことが勝利の鍵となる。よって、スタートまでの残り時間のカウントダウンが可能な計器が重要となるのだ。

このような背景の下、ヨットマスター IIは、分単位でセット可能なカウントダウン機能を備えてきた。従来のヨットマスター IIでは、スタートまでのカウントダウンを設定する際に、ベゼルを90度回転させつつリセットボタンを押し、ここからリュウズで計測時間をセットして、最後にベゼルを戻すという複雑な手順を要していた。しかし、刷新によって新たに搭載された自動巻きムーブメントのCal.4162では、4時位置のプッシャーのみで完結するという簡潔かつ直感的な仕様となった。
文字盤外周部にはスタートまでの10分を計測するスケールが描かれ、三角形の先端を持つカウンターが指し示すデザインとなっている。刷新に際して、カウントダウンであることが直感的に分かりやすいように、このカウンターは反時計回りの作動となり、プロフェッショナルが求める機能を持つ、レガッタクロノグラフに仕上がっている。
ウブロ「ビッグ・バン リローデッド」

自動巻き(Cal.HUB 1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti×セラミックケース(直径44mm、厚さ14.50mm)。100m防水。309万1000円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
次に取り上げるのが、ウブロの人気クロノグラフモデルの次世代機「ビッグ・バン リローデッド」だ。本作は「ビッグ・バン ウニコ」の次世代機にあたり、ビッグ・バン ウニコの持っていたクロノグラフモデルの魅力をより際立たせたモデルとなっている。基本のデザインは、ウブロの哲学である「アート・オブ・フュージョン」を体現する異素材の組み合わせを採用。ムーブメントもCal.HUB 1280が引き続き搭載されている。
さて、Cal.HUB 1280は、バックラッシュ抑制水平クラッチ、コンスタントプレッシャーフリクションシステム、ゼロフリクションラチェットホイールブロッカー、テンプ微調整機構、高い耐衝撃性を備えた時刻調整機構という、5つの特許取得技術を備えたムーブメントだ。このような、高い技術力と独自性のあるクロノグラフムーブメントを引き立たせるべく、ビッグ・バン リローデッドではデザインの刷新が行われている。

発表された5つのバリエーションのうち、「ビッグ・バン リローデッド チタニウム セラミック」Ref.421.NM.1123.NR.RLDは、チタンのシルバーカラーと、ブラックのセラミックスによるモノトーンを基調としたモデルだ。このモノトーンを背景に、クロノグラフ秒針と60分積算計針をレッド、6時位置のコラムホイールと8時位置のバックラッシュ抑制水平クラッチをブルーとすることで、クロノグラフの作動と、それを支える機構にフォーカスしたカラーリングとなっている。また、日付表示を4時半位置になっており、60分積算計と独立させられ、より判読性に優れた意匠となっている。
パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」

自動巻き(Cal.PF053)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。要価格問い合わせ。(問)パルミジャーニ・フルリエ https://www.parmigiani.com/
続いて取り上げるパルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」は、通常時は時分秒の3針モデルに見える、スポーティーかつエレガントなモノプッシャークロノグラフの新作だ。モノプッシャークロノグラフとは、ひとつ(モノ)のプッシャーで、クロノグラフの作動、停止、リセットを制御するものである。
本作は、トンダ PFを象徴するケースとブレスレットが一体化したシルエットに、ローレット加工を施したプラチナ製ベゼル、バーリーコーンのギヨシェ彫りを施したミラノブルー文字盤のモデルだ。ここにロジウムプレートの時分秒針が並べられており、シンプルな3針モデルに見えることが特徴となる。
そして、8時位置には、ケースのアウトラインに沿うように配置されたプッシャーが用意される。このプッシャーを操作すると、ロジウムプレートの時分秒針は12時位置に一直線に重なり、クロノグラフ機能による計測が開始される。そして、クロノグラフ非作動時にはロジウムプレートの針の下に隠されていたローズゴールドの針が露わになって、こちらが時刻を表示する構成となっている。なお、クロノグラフを停止し、リセットすると、元の時分秒の配置へと戻る。

このようなオリジナリティーのある機構を持つ、新開発の自社製自動巻きムーブメントCal.PF053は、約60時間のパワーリザーブを備え、ムーブメント厚さ6.9mmであり、ケース厚さは13mmとなる。さらに、ケースバックから鑑賞可能なムーブメントの各所には、ハイレベルな仕上げが施され、審美性も高い。
IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41 “プティ・プランス”」

自動巻き(Cal.69385)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径41mm、厚さ14.5mm)。10気圧防水。113万8500円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
2026年は、『星の王子さま』をモチーフにしたIWCの「プティ・プランス」シリーズが20周年を迎え、それを記念するアニバーサリーエディションが発表された。プティ・ブランスシリーズでは、世界的児童文学の『星の王子さま』の世界観を取り入れ、航空機パイロットでもあった作者のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリへのリスペクトを表現している。このシリーズは、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの遺族とのパートナーシップによって実現しており、広大な宇宙を彷彿とさせるサンレイ仕上げのディープブルー文字盤がデザインコードとなっている。
ここにラインナップされる「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41 “プティ・プランス”」は、直径41mmのパイロットクロノグラフモデルである。IWCのパイロットウォッチらしい、ダイヤ型の各種針と大きなアラビア数字インデックスを組み合わせた視認性の高い仕上がりが特徴だ。
ディープブルーの文字盤と、ゴールドカラーの針によって、IWCのパイロットウォッチの持つエレガントさが引き立つ仕上がりで、シーンを選ばず取り入れやすいコーディネートだ。ストラップには、文字盤と調和するブルーのラバーストラップあるいはカーフスキンストラップが組み合わされる。

自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.69385は、センターに時分針とクロノグラフ秒針、3時位置にデイ・デイト表示、6時位置にスモールセコンド、9時位置に12時間積算計、12時位置に30分積算計を備える配置で、パワーリザーブは約46時間だ。ケースバックは、ブルーに着色されたサファイアクリスタルのトランスパレントバックが採用され、ここに『星の王子さま』のイラストがプリントされており、歴史あるコラボレーションを象徴した仕上がりとなっている。




