2026年10月、ブレゲがSnow Manのメンバーとして活躍する佐久間大介氏を、「ブレゲ ハウスフレンド」に起用したことを発表した。発表されるやいなや、佐久間氏のファンを中心に、SNSでは大きな反響が巻き起こっている。時計ジャーナリストであるとともに、女性の時計好きでもある私としては、このニュースをきっかけに佐久間氏のファンが時計に関心を持ってくれることを期待せざるを得ない。そして、女性が多いであろうファンたちが時計に関心を持ってくれれば、まだ男性に比べると少ない女性向けの時計、とりわけブレゲが創業から手掛けている機械式時計の市場が拡充するに違いない。そんな期待と希望的観測が盛り込まれた、私なりの「女性にとっての機械式腕時計市場のこれから」について、展望を述べるとともに、初めて腕時計を購入しようと思っている女性に向けて、その楽しみの一端をお伝えしていこうと思う。

2年前、初めてのスイス出張となったジュネーブ・ウォッチ・デイズ2024で取材した、ブレゲの新作「マリーン レディ 9518」。「マリーン」の意匠はそのままに、小型化したうえでフェミニンなテイストが加えられたレディースウォッチの傑作だ。なお、マリーンは1990年からブレゲがラインナップしているコレクションで、アブラアン-ルイ・ブレゲが、1815年にフランス海軍省御用達時計師として、マリンクロノメーターのサプライヤーとなったことに名前を由来する。自動巻き(Cal.591A)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径33.8mm、厚さ9.89mm)。50m防水。各421万3000円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211
掲載モデルの取材記事:https://www.webchronos.net/features/124514/
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2026年10月31日公開記事]
女性にとっての機械式腕時計市場
2年ほど前、某イベントで海外の要人から、このように言われた。「女性向けの機械式腕時計は増えていますよ。男性が『高級腕時計を女性にプレゼントしよう』と思った時、クォーツ式よりも機械式を選ぶ傾向にありますからね」。
私の周囲には女性の機械式腕時計の愛好家が多いこと(もちろん自身も含めて、クォーツウォッチも好きではある)、そして前職の時計店では、女性が自分自身への購入品として機械式腕時計を選択する事例が増えていると、感覚としてもデータとしても知っていたことから、この意見には強烈に違和感を覚えた(英語が苦手なので反論はできませんでした!)。
とはいえ、やはり機械式腕時計となると、女性と比べて男性ユーザーがまだまだ多いことは事実である。そんな中、Snow Manに所属する佐久間大介氏がブレゲ ハウスフレンドに就任し、女性ファンを中心に大きな反響を呼んでいることは、時計ジャーナリストとして、そして女性の時計愛好家としては、とてもうれしい気持ちになっている。
元々、佐久間氏のファンの間でも時計業界の中でも、彼が根っからの“オタク”であり、かなりコアな時計愛好家であることは知られていた。小誌編集長の広田雅将がパーソナリティーを務めるラジオ番組「BEST ISHIDA Presents クロノス日本版 Tick Tock Talk♪」に出演し、広田も度肝を抜かれるほど、時計、とりわけブレゲに対する愛の深さを披露した。実はこの出演をきっかけに、小誌の定期購読を申し込んでくれた女性ファンがいる。
であるからこそ、佐久間氏はブレゲ ハウスフレンドに適任で、また、時計業界に女性が参入してくれる、大きなきっかけとなることは間違いない。しかし腕時計というと、どうしても高額というイメージがつきまとう。実際佐久間氏の今回のニュースへの反響の中でも、「ブレゲは高すぎて買えない」という声があった。幸い、SNS上の時計愛好家の諸氏が、そういった声に向けて「予算内で楽しめる腕時計(しかも、ピンクが用いられたモデル!)」を紹介したり、「予算を問わず時計は楽しいよ」という発信をしたりと、時計沼に引きずり込まんとする意図も感じつつ、ポジティブなアドバイスをしている姿が見受けられた。
こういった時計愛好家の姿勢はもちろんのこと、腕時計の間口は広く、予算を問わず楽しいものだと、メディアである我々自身が伝えられれば、時計市場はいっそう拡充していくだろう。そこで、佐久間氏がきっかけにしろそうでないにしろ、腕時計に興味を持ち始めた女性に向けて、私なりに腕時計の楽しみ方を伝えてみたい。
なお、本記事の「市場」で機械式腕時計に限っているのは、冒頭で述べた、某要人から言われた言葉がわだかまりとして残っているのと、佐久間氏が今回フレンドに就任することとなったブレゲは、アブラアン-ルイ・ブレゲを祖に、伝統的な機械式時計に革新を起こしてきたブランドであるためだ。もちろんクォーツ式腕時計も楽しく、また、多くの面白みを秘めているので、機械式、クォーツ式問わず、気になった1本ができたらぜひ調べてみたり、店頭で手に取ってみたりしてほしい。

以前借りて着用した、セイコー プレザージュの2025年発表モデル。アンダー10万円とは思えない文字盤の質感に注目したい。小ぶりな自動巻きムーブメントCal.2R05を搭載することで、ケース直径30.3mmに抑えている。自動巻き(Cal.2R05)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径30.3mm、厚さ10.9mm)。5気圧防水。8万9100円(税込み)。(問)セイコーウオッチ お客様相談室 Tel.0120-061-012
安くても高くても、機械式腕時計って楽しい
佐久間氏のニュースへの反響の中に、「(ブレゲをはじめとした高級腕時計が)高くて買えない」という声があったと述べた。ブレゲに限らず、確かに機械式腕時計を取り扱うブランドの中には、高価格帯となるところが少なくない。現在普及している機械式腕時計の多くは主ゼンマイを動力源に、この主ゼンマイがほどけるスピードを調整したうえで歯車に動力を伝えることで、歯車に取り付けられた時針、分針などの針が一定のリズムで時を刻んでいく。パーツ数が多く、また、歯車の噛み合いに高い精度が求められるため、その仕組み上、製造コストが高い傾向にある。実際はムーブメントを専用に製造するサプライヤーの製品を使ったり、あるいは近年では加工技術が向上し、各社は優れた精度のパーツを量産したりすることでコストを抑えているが、ブレゲをはじめとする高級腕時計ブランドは「機械で動くロマン」を追求し、この機械を鑑賞の対象とし、パーツに丁寧な仕上げや目を引く装飾を施したり、今なお製造の難しい複雑な機構を付加したりするため、開発、製造コストは格段に高くなる。

とはいえ前述の通り、機械式腕時計であってもコストを抑えて手の届きやすい価格で販売している腕時計ブランドは多数ある。そういった購入の候補になりやすいブランド、モデルについては、すでにSNSで時計愛好家が挙げているので、ひとつひとつ解説はしないが、その中で気になる腕時計が見つかったら、ぜひ実機を見て、手首に載せてみてほしい。
進む腕時計のジェンダーレス化
もうひとつ、女性が腕時計を初めて購入するうえで追い風となっているのが、時計業界でトレンドとなっている“ジェンダーレス”化だ。
2000年代より、“デカ厚”という、大ぶりで厚みのあるケースを持った腕時計が流行している。大きくて肉厚な腕時計はかっこいいのだが、手首回りや体格によっては装着感が悪かったり着けこなしが難しかったりするという制約をある。無論、女性にとってはなかなか難しいジャンルであるのは間違いない。しかし近年、腕時計のケースの、小径薄型化が進んでいる。前述の通り加工技術が進化して、ムーブメントを小型化させやすくなったことや、「レトロ回帰」として、昔のスタンダードであったサイズ感に近づけたモデルが好まれるようになったことが、背景にあるためだ。結果として、男性であっても女性であっても着用できるサイズ感の腕時計が多く普及するようになった。「メンズ」「レディース」といったくくりを取り払うブランドも増えている。
同時に、ケースのラグからラグにかけての「全長」のサイズを見直す動きも増えた。腕時計のケースは小さく厚みが抑えられている方が、装着感は良くなる。しかし手首幅に対して全長が大きいと、着け心地はとたんに悪くなる。反対に、ケース直径や厚さがあっても、全長が短いと着けやすい。つまり、スペックの数値上は「自分には大きすぎるかな」と感じたとしても、実際に手首に載せてみると思いの外しっくりくるということが、往々にしてあるのだ。
こういったトレンドは男女問わず、さまざまなサイズやデザインの腕時計を選びやすくしてくれている。繰り返しになるが、気になる時計があったらサイズやデザインだけで躊躇せず、一度実機を見て、手首に載せてみるのが良いのだ。思わぬ出合いが、そこにあるかもしれない。

こちらも以前借りた「シーマスター ダイバー300M パリ2024」。直径42mm、厚さ13.7mmと、決して小さくはないケースながら、全長が短いので、手首回り14.7cmの私にとっても、驚くほど着け心地がよかった。自動巻き(Cal.8800)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS×18Kムーンシャイン™ゴールドケース(直径42mm、厚さ13.7mm)。300m防水。154万円(税込み)。
掲載モデルの着用記事:https://www.webchronos.net/features/113777/
「憧れの1本」も持ちつつ、いろいろな機械式腕時計を楽しみたい
Snow Manの佐久間大介氏をきっかけに、広がる女性の機械式腕時計市場について、その展望と「楽しみ方」を報告した。
なお、現時点での楽しみ方を提案したが、ブレゲのように、「今はまだ買えないけど、憧れの1本」を決めておくのもまた楽しい。その1本を目標に、仕事を頑張ったり、あれこれ妄想したりといった楽しみ方も存分に味わってほしい。そうして女性の機械式腕時計の輪が広がって、よりいっそう面白い製品が出てきたり、女性同士の交流を楽しんだりできたら良いなと思う。




