ロレックスなど、バーゼルを離脱して独自の見本市を開催へ

FEATUREその他
2020.04.15

 2020年4月14日、FHH(高級時計財団)は、ロレックス、パテック フィリップ、シャネル、ショパールとチューダーの5ブランドがバーゼルワールドを離脱し、FHHと共同で時計フェアを開催することを発表した。

広田雅将(クロノス日本版):文
Text By Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

 新しい見本市の開催地はウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(旧SIHH)の開かれるジュネーブのパレクスポ。時期は2021年4月上旬で、タイミングもウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(旧SIHH)と同じである。FHHは離脱の理由を次のように挙げた。

「この離脱は、バーゼルワールドのマネジメント陣による、協議なしに行われた一方的な決定が引き起こしたもののひとつである。それは2021年1月までの時計ショーの延期も含まれており、それはブランドのニーズや期待に応えることができない」

 対して、バーゼルワールドを運営するMCHグループは、同日に次のような声明を発表した。

「MCHグループは、バーゼルワールドにおける主要な出展者たちのキャンセルに対して、非常な驚きと遺憾を覚えている。バーゼルワールド2020のやむを得ない延期に伴う新しいスケジュールは、主要な出展者たちと共同で決定されたものだった。その目的は、Covid-19に関わる処置に従って、時計業界で最も早く、最も適切なタイミングを見つけるためだった。現在『ジュネーブに移行』している企業(ロレックスを含む)は、2021年1月への延期を支持する旨を表明していた」

 

 離脱を表明した5社はバーゼルワールドの中心である、ホール1.0にブースを構えており、とりわけロレックス(チューダー含む)、パテック フィリップ、ショパールの3社は、バーゼルワールドを支える通称「ビッグファイブ」(ほかはスウォッチ グループおよびLVMH グループ)の一角として大きな存在感を示していた。2019年にはスウォッチ グループが袂を分かち、今年はそこに上記の5ブランドが続くこととなった。なお、関係者の推測によると、ロレックスとチューダーが2017年のバーゼルワールドに投じた費用は、年3000万スイスフラン以上と言われている。仮に5ブランドの離脱が確定すると、バーゼルワールドを運営するMCHグループは、約1億スイスフラン前後の減収が予想される。

 離脱に対して、フランスのジャーナリストであるジャン-フィリップ・タロはクロノス日本版に対して次のように述べた。「私の知る限り、この5ブランドは2年以上、離脱をほのめかすサインを出していた。彼らはウォッチサロンへの出展に反対するのではなく、バーゼルワールド事務局に反対したのだ」。また、ドイツのジャーナリストであるギズベルト・L・ブルーナーも「離脱は予想していた。というのも、バーゼルワールド2021の期日を、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブから離れた1月に延長すると聞いた某メーカーは、それをまったく歓迎していなかったからだ」と説明した。

 

 運営と、参加メーカーの対立を述べたのは、シンガポールのジャーナリスト、SJXである。彼は忍耐強かったロレックスでさえ忍耐力を使い果たしたと語り、次のように続けた。

「バーゼルワールドの延期は急に決定された。そして、その決定は出展者に通知される前に、公に発表されてしまったのだ。離脱する各ブランドが『協議なしに行われた一方的な決定のひとつ』として言及したのがまさにそれだった。故に彼らは去らざるを得なかった」

 FHHと共同でウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブを開催するジュネーブ市は、ここ数年、主にジュネーブに拠点を置くメーカーに対して、バーゼルではなくジュネーブでの時計見本市に参加するよう呼び掛けていた。もっともそれが不可能と見なされていたのは、SIHHに新規参入するには、すでに参加している全メーカーの許諾が必要だったためである。事実、今回バーゼルワールド離脱を決めた某メーカーは、リシュモン グループに所属する1社の反対により、長らくSIHHへの参加が認められなかった。

 今回のリリースを注意深く読むと、これら5ブランドはウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブに参加するのではなく、「FHHと共同で、新たな時計フェアを開催する」とある。この表現が示すのは、バーゼルワールドを離脱する5ブランドに対して、すでにウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブに加わった各メーカーが、必ずしも好意的でなかったことを示している。そのため、新しいフェアという名目を打ち出さざるを得なかった、と推測できる。もっとも、FHHの対応次第では、今後、新しい見本市が、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブに吸収される可能性も否定できない。

 なお、FHHの発表を受けて、2020年4月14日、バーゼルワールドを運営するMCHグループの株価は、約7.3%下落した。

関連記事

新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が時計業界に及ぼした影響をタイムラインで振り返る


https://www.webchronos.net/features/43740/
世界最大級の時計見本市「バーゼルワールド 2020」コロナウイルスで開催延期


https://www.webchronos.net/news/42142/
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(旧SIHH)の開催キャンセルが発表


https://www.webchronos.net/news/42053/
2003年バーゼルワールドの「事件」から考える「TIME TO MOVE 2020」中止の背景


https://www.webchronos.net/features/41339/