2023年新作時計から特に注目すべき超弩級のコンプリケーションウォッチ(複雑時計)を紹介!

FEATURE2023年新作時計
2023.07.29

ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブを始め、2023年上半期には各社から多彩な新作が出そろった。この新作のうち、特筆すべきコンプリケーション(複雑時計)を4モデル取り上げる。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
[2023年7月29日公開記事]


見るべき2023年新作「コンプリケーション(複雑時計)」

 23年上半期に発表された魅力的な新作を、ジャンル別にブランド横断で俯瞰する企画として「コンプリケーション(複雑時計)」を取り上げる。複雑時計は工芸品としての時計文化と深い結び付きがあり、各ブランドの長い歴史や高い技術力を表現するものであって、文字通り「腕の見せ所」である。

 毎年、いくつかの超大作が発表されているが、本年はパテック フィリップとオーデマ ピゲから超弩級のコンプリケーションが発表され、ジャガー・ルクルトからはお家芸の多軸トゥールビヨン搭載機が発表されるなど豊作であったと言えるだろう。その他、注目の2モデルと共に紹介しよう。




パテック フィリップ「グランドマスター・チャイム 6300GR」

グランドマスター・チャイム 6300GR
グランドマスター・チャイム 6300GR
パテック フィリップ「パテック フィリップ・グランドマスター・チャイム 6300GR」
手巻き(Cal.300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM)。108石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間(チャイム機構は約30時間)。18KWG×18KRGケース(直径47.7mm、厚さ16.07mm)非防水。価格要問い合わせ。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109

 複雑時計に注目する上で外せないのがパテック フィリップだ。本年も超弩級の新作が発表されている。「パテック フィリップ・グランドマスター・チャイム 6300GR」は、複雑時計を得意とする同社の中で最も複雑なタイムピースの18KWGと18KRGのコンビモデルだ。

グランドマスター・チャイム 6300GR

 ケース両面にダイアルを備え、20の複雑機構を有しながら、そのデザインは整然として均整が取れている点は、パテック フィリップの歴史のなせる業だろう。では、搭載される機能を列挙してみよう。



・24時間の時分表示サブダイアル
・3つのゴングによる5つのモードを備えたチャイム機構(グランドソヌリ、プティットソヌリ、ミニット・リピーター、アラーム、デイトリピーター)
・アラームON/OFF機能
・チャイム機構隔離表示
・ムーブメントおよびチャイム機構のパワーリザーブ表示
・第2タイムゾーン表示とその昼夜表示
・瞬時日送り式永久カレンダー
・デイデイト表示(両文字盤)、月、閏年サイクル指針表示と4桁の年表示
・ムーンフェイズ
・リュウズの位置表示


 チャイム機構や永久カレンダーのような複雑機構の代表例とも言える機能に加えて、不適切な操作が故障に直結しやすいリュウズの位置表示が備わっている点は、本作がコンセプトモデルではなく、実用を想定したものであることがよく分かる。


【2023年新作時計】「パテック フィリップ・グランドマスター・チャイム」から初のホワイトゴールドとローズゴールドのコンビモデルが登場

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オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」

 長い歴史と高い技術力に基づいてコンプリケーションを世に送り出す点は、今回の記事で紹介する各社に共通するものだが、その中でオーデマ ピゲは現代的で前衛的なスタイリングにまとめ上げることを特徴としている。「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」は、その特徴がよく表れたモデルだ。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4

 RD#4とはRDと名付けられた一連の作品の4番目であることを示しており、2015年発表のスーパーソヌリのRD#1、18年発表のウルトラ シン パーペチュアルカレンダーのRD#2、22年発表のロイヤル オーク フライング トゥールビヨン エクストラ シンのRD#3に続くものである。


 本作は1899年発表で最も複雑な時計のひとつとされる懐中時計「ユニヴェゼル」にオマージュを捧げるモデルである。本作に搭載される機能を列挙しよう。

・トゥールビヨン
・2400年まで修正が不要なパーペチュアルカレンダー
・デイデイト表示、月および年表示とムーンフェイズ
・巻き戻しにも対応した日付早送り機能
・4時位置のぷっしゃの部分回転による月と年の早送りと巻き戻し機能
・フライバック機能とスプリットセコンドを備えるクロノグラフ
・クロノグラフのミニッツカウンターとアワーカウンター
・ミニッツリピーター、グランドソヌリ、プチソヌリ、スーパーソヌリ
・サイレントおよび、時間および分のみの鳴鐘となるクォーターサイレント、
・バレル巻き上げが不十分な場合の自動および手動起動ロック


 これらの多くの機能を備えながら、操作系は3時方向の3つのリュウズと、9時方向のプッシュボタンのみとし、専用工具を必要としない操作性を実現しつつ、ケース径を42mmに抑えてCODE 11.59のデザインコードを維持している点は、本作の完成度の高さを示している。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」
自動巻き(Cal.1000)。90石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約64時間。18KWGケース(直径42mm、厚さ15.55mm)。2気圧防水。価格要問い合わせ。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


2023年 オーデマ ピゲの新作時計まとめ

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オーデマ ピゲ 受け継がれる技術資産と進化「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」編

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ジャガー・ルクルト「レベルソ・ハイブリス・アーティスティカ キャリバー179」

 ジャガー・ルクルトの23年のテーマは「レベルソ」であり、シンプルなスモールセコンドモデルやジュエリーウォッチといった複数のアプローチから新作を発表した。その中で、ジャガー・ルクルトのシグネチャーである多軸トゥールビヨンと、レベルソの原点であるアール・デコのテイストとプロポーションを融合させたのが「レベルソ・ハイブリス・アーティスカ キャリバー179」である。

 仕上がり厚さ13.63mmのケースに納められた6時位置の多軸トゥールビヨンは、ダイアル垂直方向を軸に回転するペリフェラルキャリッジを秒表示としており、かつそれと直交する軸を中心に半球状のヒゲゼンマイやジャイロラボが回転する。

レベルソ・ハイブリス・アーティスティカ キャリバー179

 さらに、トゥールビヨン機構は従来のブリッジではなくボールベアリングのリングで支えられており、フライング・ジャイロトゥールビヨンがレベルソの両ダイアルの間の空間に浮かんでいる視覚効果を生み出している。

 こういったデザイン上のアクセントはもちろんのこと、優れた精度と作動効率も実現しており、本作の多軸トゥールビヨンはジャガー・ルクルトの長年にわたる研究開発の成果と言えよう。両面のダイアルには異なるタイムゾーンを表示するだけでなく、裏ダイアルには24時間表示の第2時間帯も備える。

レベルソ・ハイブリス・アーティスティカ キャリバー179

ジャガー・ルクルト「レベルソ・ハイブリス・アーティスティカ キャリバー179」
手巻き(Cal.179)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPGケース(縦51.2×横31mm、厚さ13.63mm)。30m防水。世界限定10本。価格要問い合わせ。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833


2023年 ジャガー・ルクルトの新作時計まとめ

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フレデリック・コンスタント「クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール」

 手の届くラグジュアリーを掲げるフレデリック・コンスタントの新作の中で最注目であるのが「クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール」である。

クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール

フレデリック・コンスタント「クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール」
自動巻き(Cal.FC-980)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KRGケース(直径39mm、厚さ10.99mm)。30m防水。世界限定150本。(問)フレデリック・コンスタント相談室 Tel.0570-03-1988

 本作はブランド誕生35周年を祝う記念モデルであり、自社製トゥールビヨンムーブメントのCal.FC-980を搭載した本作は、ケース径39mm、時計仕上がり厚さ10.99mmのサイズ感に収められ、Cal.FC-980が自動巻きである点からも、本作は実用性を重視しているのが分かる。6時位置の開口部は広く取られ、トゥールビヨンの作動に加えて、シリコン製ガンギ車とアンクルの動きを鑑賞可能である。

クラシック トゥールビヨン マニュファクチュール

 トゥールビヨンとしては珍しく、キャリッジには秒針も取り付けられているため、秒単位での時間計測も容易となっている。世界限定150本となる18KRGケースモデルの価格は418万円、本作の後に発表されたステンレスケースモデル(2モデル 各350本)は231万円(いずれも税込み)であり、トゥールビヨンモデルとしては安価に抑えられている。


2023年 フレデリック・コンスタントの新作時計まとめ

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ハートビートかワールドタイマーか? フレデリック・コンスタントの 「継承と革新」を表す注目の2本

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ユリス・ナルダン「フリーク ONE」

 ユリス・ナルダンの「フリーク」は、シリコン脱進機の搭載と、脱進機とテンプが分針と一体化したカルーセル搭載の先駆者である。初代フリークの大きな特徴は「ダイアルがないこと」「針がないこと」「リュウズがないこと」の3つであり、これを踏襲して原点に立ち返るモデルとして発表されたのが新作の「フリーク ONE」である。

 時刻合わせはケース6時位置のロックを解除してベゼルを回転することで行う。リュウズがないことでケースシェイプは完全なシンメトリーとなってシンプルでありながら、脱進機やテンプ、輪列の並ぶ機構が強調されたスタイリングが唯一無二の存在感を放っている。

フリーク ONE

 また、機構が針の役割を担っていることで、それらを時計の表(おもて)面から常に鑑賞可能できる楽しさを合理的に両立している点も、本作を始めとしたフリークの特徴である。

 特異な外観だが視認性に優れる点も付け加えておこう。本作の脱進機には、合成ダイヤモンドとシリコンのプラズマ表面加工である「ダイヤモンシル」を施し、ムーブメントの耐摩耗性と耐衝撃性を高めている。

フリーク ONE

ユリス・ナルダン「フリーク ONE」
自動巻き(Cal.UN-240)。15石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti×18KRGケース(直径44mm、厚さ12mm)。30m防水。926万2000円(税込み)。(問)ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791


2023年 ユリス・ナルダンの新作時計まとめ

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ユリス・ナルダン フリーク

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トゥールビヨンの仕組みを知る。機能や搭載モデルを解説

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カレンダー機構 第2回「永久カレンダー」

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ミニッツリピーターとは? その歴史と代表的モデル

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