日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026で発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は、時計ジャーナリストの篠田哲生が登場。毎年この見本市を取材する篠田氏が「今年は『不思議な時計』が多い」と語ったうえで、Wonderな魅力が詰まった5本を選出した。

パルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」
もはや熟成しきった時計機構と思われていたクロノグラフを、こういう形で表現するかと驚愕。通常時に表示されているセンターの時分針がクロノグラフ計測へと変身しても現在時刻が分かるという機能性や、美しいダイアル構成を崩したくないというこだわりに感服。

自動巻き(Cal.PF053)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。要価格問い合わせ。(問)パルミジャーニ・フルリエ https://www.parmigiani.com/
ブルガリ「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」
37mm径の薄型ケースにこれだけの機構を詰め込んだ不思議な時計。よくぞやり遂げたと感心しきり。時分針+スモールセコンドのモデルも端正なバランスが素敵だが、機構を凝縮したミニッツリピーターには、時計ブランドとしてのブルガリの本気を感じる。

手巻き(Cal.BVL362)。毎時2万1600振動。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径37mm)。30m防水。要価格問い合わせ。(問)ブルガリ・ジャパン Tel.0120-030-142
ウブロ「スピリット オブ ビッグ・バン インパクト サファイア ジュエリー」
透明の超硬素材に透明の超硬宝石を組み込むのは、想像以上に凄い技術。同系色でなじんでしまうので、視覚表現的にはややシック。しかし卓越した技術だけがもたらすオーラはやはり別格。不思議な魅力があるのです。

自動巻き(Cal.HUB1770)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。サファイアクリスタルケース(直径42mm、厚さ15.50mm)。50m防水。世界限定20本。6979万5000円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
エルメス「エルメスHO8 スケレット」
デザイン化されたスケルトンムーブメントは数あれど、さすがはエルメス。美しい建築作品を見ているような、上質なその構造に魅せられてしまった。ローターの形もケースデザインに合わせており、抜かりはない。

自動巻き(Cal.H1978S)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(縦42×横39mm)。10気圧防水。予価346万5000円(税込み)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300
カルティエ「ロードスター」
二十数年前に、独立する節目で買ったのが初代「ロードスター」。それから月日は流れ、だいぶ大人になったあいつと、ジュネーブの地で不思議な再会。当時は時計の仕事をするとは思ってなかったな……。そんなおセンチな思い出も含めてセレクト。

自動巻き(Cal.1847 MC)。SS×18KYGケース(縦47.2×横38.8mm、厚さ10.06mm)。10気圧防水。予価331万3200円(税込み)。2026年10月発売予定。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00
総評:まさに、時計の不思議を感じた1週間
今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(以下W&WG)では、乾燥とウイルスによる声帯炎で声が出なくなってしまい、関係各位には随分と心配させてしまいました。ほとんど会話はできなかったものの、しっかり目と指先で新作時計を堪能し、今年は「不思議な時計」が多いなぁという印象。
その筆頭はパルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」で、中3針なのにクロノグラフになるという独創性は、どういう考えから生まれたのか、開発者の頭の中をのぞいてみたくなります。それ以外にも、複雑機構の小径化や素材の融合、スケルトンムーブメントの構造美など、ここまでやる必要はないよな、という限界値をやすやすと超えてくる不思議な時計に魅せられました。
イベントそのものの雑感としては、今年からオーデマ ピゲがついにW&WGに参加し、A.ランゲ&ゾーネを含めた高級時計ブランド四天王がひとつのイベントに居並ぶという図式が完成。これまでなかったというのも不思議なことですが、このイベントの格がさらに上がったことは間違いないでしょう。そしてクレドールの初参加もうれしいニュース。生産本数が少ないため海外の時計関係者にとってはなかなか実機を見る機会がない“不思議な時計ブランド”ということで、ブースを訪れる他ブランドのスタッフも多かったらしいです。これを機にクレドールの人気が海外でも高まることに期待です。そしてユリス・ナルダンのブース前にいたヒューマノイドロボットたちも、不思議な存在でした。しかも何者なのかを調べたら、それ以降Youtubeに同社の不思議なイヌ型ロボットの広告が流れるようになってしまい、ちょっと困ってます。
時計もそれを取り巻く環境も、自由に進化する。まさに時計のWonderな魅力が詰まっていたイベントだったのではないでしょうか。
選者のプロフィール

篠田哲生
1975年生まれ。講談社『ホットドッグプレス』編集部を経て独立。時計専門誌、ファッション誌、ビジネス誌、新聞、ウェブなど、幅広い媒体で硬軟織り交ぜた時計記事を執筆している。また仕事の傍ら、時計学校「専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」のウォッチコース(キャリアスクールウォッチメーカーコース)に通い、時計の理論や構造、分解組み立ての技術なども学んでいる。クロノス日本版のTop 10 Rankingのレギュラー選考委員。2020年には『教養としての腕時計選び』(光文社新書)を上梓。




