日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2026で発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は髙木教雄氏が選んだ5本を紹介。「トレンドなきことはいいこと」と語った髙木氏の選んだ5本は、いずれもブランドの個性が大きく発揮された逸品ぞろいだ。

1位:ヴァン クリーフ&アーペル「ミッドナイト ジュール ニュイ ファーズ ドゥ リュンヌ ウォッチ」
昼夜表示とムーンフェイズの統合は他社も実現しているが、表現力が群を抜く。10秒周期で回転させられるオートマタ機能もさることながら、黒いアヴェンチュリンガラスを独自開発するなど素材と工芸技術を融合した美でも魅せる。

自動巻き。パワーリザーブ約36時間。18KWGケース(直径42mm)。予価2574万円(税込み)。2026年6月発売予定。
2位:A.ランゲ&ゾーネ「サクソニア アニュアルカレンダー」
過去にも同名のモデルがあったが、新ムーブメント&36mm径の新サイズで復活! この大きさでアニュアルカレンダーを実現したのは、驚きである。お得意の一斉送りボタンが、リュウズを引かないと押せない設計も手堅い。

自動巻き(Cal.L207.1)。56石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWGケース(直径36mm、厚さ9.8mm)。要価格問い合わせ。
3位:チューダー「チューダー ロイヤル 36mm」
自社製ムーブメント搭載に刷新されたことで、約70時間駆動&COSCクロノメーターへと進化を果たした。加えて耐磁性にも優れ、100m防水が備わるブレスレットウォッチが50万円を切っているのだ。これ以上、一体何を望む?

自動巻き(Cal.MT5412)。28石。SSケース(直径36mm、厚さ9.7mm)。100m防水。47万5200円(税込み)。
4位:パテック フィリップ「ゴールデンエリプス 3738」
2018年に姿を消した、我が愛しの“3738”が帰ってきた! 黄金比に基づく麗しきプロポーションは、やはりこのサイズ感が1番しっくりと来る。ケースの鍛造用金型をちゃんと残しておいてくれたことに、感謝!

自動巻き(Cal. 240)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWGケース(縦35.6×横31.1mm、厚さ5.9mm)。3気圧防水。659万円(税込み)。
5位:カルティエ「サントス デュモン」
ストラップのみの展開だったシリーズに、初めて加わったブレスレットは、極めてスリムなリンクによる15連! これが実にエレガントであった。しかも柔らかで、着け心地がいい。ジュエラーとしての力量が、発揮された。

手巻き(Cal.430 MC)。18KYGケース(縦43.5×横31.4mm、厚さ7.3mm)。日常生活防水。予価858万円(税込み)。6月発売予定。
総評
トレンドがないのが、今年の新作時計のトレンド──しばらく前にも同じようなことを書いたような気がするけれど、今年のW&Wの会場では、新作時計の明確な方向性を見出すことができなかった。クラシカル路線は継続していたし、小径モデルも多かった。しかし一方で、スポーティな新作や大ぶりなモデルも散見できた。
「今年は、おとなしい」なんて声が聞こえてきたのは、中国経済の冷え込み、トランプ関税という2大マーケットのマイナス要因が開発に影を落としたから……ではなく、はっきりとしたトレンドを感じ取れなかったからだろう。それは、いい傾向である。トレンドがなかったのは、各社が独創性を発揮した証拠なのだから。十分に練られたコンプリケーション、精巧なオートマタ、スケルトン、薄型ケース、ギヨシェやエナメルなどを駆使した工芸的なダイアル……多くのブランドのブースで、流行り廃りに流されない腕時計の本質的価値を高める工夫に出会え、実に楽しかった。
商談のために訪れた日本の時計店の方々は、「高くなり過ぎ」とお嘆きのようあったが、スイスフランベースで考えれば過剰に高額化しているわけではない。円安が、悪いのだ。例年よりもSSモデルが増加傾向にあったのは、金相場の高騰が影響しているのだろう。しかしSSがトレンドとも、言い切れない。各ブランドが真摯に、そして丁寧に時計製作向き合ったと、今年のW&W会場で十二分に感じ取ることができた。
選者のプロフィール
髙木教雄
時計ジャーナリスト。工学部で培った知見と、圧倒的な取材経験によって裏付けされた原稿が魅力的な業界随一の理論派である。その豊富な知識と鋭い視点で切り込んでいく時計専門誌向けの記事から、一般誌での時計特集、新聞での初心者向け記事など、活躍のフィールドは幅広い。世界文化社から機械式時計の入門書、『腕時計のしくみ』『世界一わかりやすい 腕時計のしくみ【複雑時計編】』を上梓。



