巻き上げ機構 パワーリザーブ

FEATURE時計機構論
2019.08.17

ロングパワーリザーブの登場

パルミジャーニ・フルリエ
1998年に発表されたパルミジャーニ・フルリエ初の完全自社製造ムーブメント、Cal.PF110は、独創的な設計の名機。ケースに合わせたトノー型の形状に2個の香箱を収め、手巻きで約8日間というロングパワーリザーブを実現。これを搭載する「カルパ XL エブドマデール」は、ブランドの代表作になった。12時位置に1〜8日を示すハンド式のパワーリザーブ表示をレイアウト。

 ここまでパワーリザーブの例に40時間を使ってきたが、それは、従来の腕時計の大半がこの40時間近辺に集中しているからである。ブランドを問わず大量に使われてきた汎用ムーブメントのスペックがほぼ40時間台にあるのもその理由。実際のパワーリザーブは、主ゼンマイ、歯車を組み合わせた輪列、脱進機、調速機、あるいは調整やパーツの素材、さらにはユーザーの使い方など、さまざまな要素が複雑に絡み合って決まるから、スタンダードなムーブメントとしてはそのあたりが落ち着きどころになっている。

 これに対して標準を超えるロングパワーリザーブをもった、独自色を打ち出した自社ムーブメントの開発も1990年代に進んでいた。手法としては、香箱(バレル)の数を増やしてパワーを増強する方法だ。A.ランゲ&ゾーネのCal.901.0=2バレル手巻き約72時間、ショパールのL.U.C 1.96=2バレル マイクロローター自動巻き約65時間、同じくショパールのL.U.C 1.98=4バレル手巻き約8日間、パルミジャーニ・フルリエのPF110=2バレル手巻き約8日間などが有名だ。

 2000年代に入ると、ロングパワーリザーブモデルは格段に増える。皮切りは、香箱1個に長尺のゼンマイを収め、ペラトン式自動巻きで約7日間のパワーリザーブを実現したIWCのCal.5000(2000年)。5000系は同社のパイロットウォッチや永久カレンダーなどに使われ、その後のIWCの自社ムーブメント開発にとって重要は礎となった。

A.ランゲ&ゾーネ
約31日間も持続する驚異のロングパワーリザーブを実現したのは2007年発表の「ランゲ 31」に搭載されたムーブメントCal.L034.1。強大な動力を制御するルモントワールスプリングを備え、1か月という長期に渡って安定した歩度を実現。ダイアル右半分を占める巨大なパワーリザーブ表示も独特だ。写真は2017年発表のグレー・ダイアル・モデル。ケース素材はホワイトゴールド。

 2000年代にロングパワーリザーブにポイントを置いた自社ムーブメントの開発で目覚ましい成果を上げたのはパネライである。3バレル手巻き約8日間Cal.P.2002(2005年)、3バレル自動巻き約10日間Cal.P.2003(2007年)、2バレル自動巻き約72時間Cal.P.9000(2009年)を矢継ぎ早に発表して注目を浴びた。2000系の水平移動パワーリザーブインジケーターにも実にユニークな機構だった。

 ハイエンドの複雑時計においてもロングパワーリザーブは話題を振りまいた。パテック フィリップの手巻き約10日間トゥールビヨン(2003年)を筆頭に、オーデマ ピゲの手巻き約10日間トゥールビヨン・クロノグラフ(2006年)、ブランパンの自動巻き約7日間トゥールビヨン(2006年)、ジャガー・ルクルトの創業175周年記念モデルの手巻き約15日間ミニッツリピーターと手巻き約8日間永久カレンダー(2008年)などだ。

 さらにはA.ランゲ&ゾーネが2007年に発表した「ランゲ31」は、全長1850mmに及ぶ異例のゼンマイを2個の香箱に収め、特殊なカギ巻き式で約31日間、つまり1か月間のパワーリザーブという空前絶後のハイパフォーマンスを実現した。初出から10年を経た今年、SIHHでその新装モデルも発表され、あらためて史上最強のロングパワーリザーブウォッチの貫禄を世に示した。