巻き上げ機構 パワーリザーブ

FEATURE時計機構論
2019.08.17

ティソ
2013年にティソが発表した新型自動巻きムーブメント「パワーマティック80」は、手の届く価格レンジの機械式腕時計にロングパワーリザーブ革命を起こす。2017年の最新モデル「ティソ バラード オートマティック」に搭載されているのは、調速機にシリコン製ひげゼンマイも使う改良版で、COSC認定クロノメーターの「パワーマティック80」。約10万円という驚きの価格である。

 2010年代になってからロングパワーリザーブの流れにまたしても興味深い動きが見られるようになった。それは2013年のバーゼルワールドでのこと。ティソが発表した「パワーマティック80」という、ETAと共同開発した新型ムーブメントだ。自動巻きETA28XX系をベースにして、香箱、輪列、調速脱進機を改良し、名称のように、通常のおよそ倍の約80時間パワーリザーブを実現した。さらにチューンナップ版は、COSC認定クロノメーターの高精度を誇るから恐るべし。

 80時間という設定はなかなか巧妙だ。これすなわち3日と8時間。自動巻きムーブメントが完全に巻き上がった状態ならば、例えば金曜日の夜10時に腕から外して放置したとしても、月曜の朝も余裕で動いていて、火曜の朝6時までは持続する計算になる。

 しかし本当の“恐るべし”は、そうした高性能ムーブメントを手頃な価格のエントリー・モデルに搭載し、圧倒的なコストパフォーマンスを実現している点である。ロングパワーリザーブモデルは、高価な高級時計のものというイメージや価値観をあっさり塗り変えてしまったから、その意味でも画期的である。手の届く自動巻きモデルが80時間連続作動するのは当たり前という流れは、ティソのパワーマティック80のみならず、同じスウォッチグループのハミルトンやミドーなどでも加速しているから今後も目が離せない。