GMT機構 第3回「デュアルタイムとバリエーション」

FEATURE時計機構論
2017.04.28

パテック フィリップ「アクアノート・トラベルタイム Ref.5164」
デュアルタイム機構が備わる自動巻きムーブメント(Cal.324 S C FUS)を「アクアノート」に搭載した2016年発表のローズゴールドモデル。2本の時針があり、旅先では通常の時針を現地時刻(ローカルタイム)の表示に、もう1本のスケルトンの時針のほうを出発地の時刻(ホームタイム)に用い分けるこの「トラベルタイム」の機構は、1959年にパテック フィリップが取得した特許に基づく。現代モデルでは昼夜を色で示す表示も完備している。
菅原 茂:文
Text by Shigeru Sugawara

 前回までの繰り返しになるが、「GMTウォッチ」と呼ばれる時計の最も基本的なものは、センターに2本の時針があり、12時間で1周するメインの時針をローカルタイムの表示に用い、24時間で1周するもう1本の時針(GMT針)をホームタイム(第2時間帯)の表示に用いるタイプ。さらには、同じ原理を用いたGMT機構でも、表示スタイルが異なるものとなると、現在かなりのバリエーションがある。

 最もシンプルかつスマートなのは、ダイアルに2本のセンター時針を配しながら、一方の時針を任意で移動できるタイプ。典型的なGMTウォッチとの違いは、2本の時針が一緒に揃って12時間で1周する点である。代表モデルといえば、パテック フィリップの「トラベルタイム」だ。2本の時針はスプリットセコンド・クロノグラフの秒針のように通常は上下に重なって動き、ふだんはまるで1本の時針のように見えるのがミソだ。

 そして旅先では、これら2本の時針を分離してデュアルタイムウォッチに変身させることも可能だ。一方の時針は1時間単位でジャンプして移動でき、時針の進む/戻るの各操作は、時計が動いた状態のままケース左のプッシュボタンで簡単に行え、分表示にも影響を与えない。「トラベルタイム」の第2時針は12時間表示のため、ホームタイムの時刻を参照する際に昼夜の区別がつくように、24時間表示のサブダイアル、もしくはLOCALとHOMEそれぞれの昼夜インジケーターも併設されている。

 パテック フィリップは、同方式の原型となる時針の変更機構を開発して1960年代初頭に「カラトラバ」のデュアルタイムウォッチを発表しているが、現在の洗練された機構をもった「トラベルタイム」の登場は20年前の1997年のこと。それ以降トラベルタイム機能搭載の各種モデルが発表されている。ちなみに、これと表示や操作がよく似た現行モデルには、A.ランゲ&ゾーネ「サクソニア デュアルタイム」、ジャガー・ルクルト「マスター・デュアルタイム」、モンブラン「ヘリテイジ クロノメトリー デュアルタイム」などがある。