巻き上げ機構 「自動巻き」

FEATURE時計機構論
2019.07.08

IWC
ぺラトン式自動巻きの原理。ローターでハート型カム(2)が右または左に回るとローラー(3と4)が押される。その力でベースプレート(5)も左右に振れ、爪が付いたロッキング・バー(6と7)が動いて巻き上げ中間車(8)を一方向に回しつつ制動もかける。このラチェット方式により一方向に整列された力が主ゼンマイへと伝わる。

IWC
自動巻きムーブメントの傑作として名高いCal.85系は、アルバート・ペラトンの設計によって1950年に誕生。独自のラチェット式両方向巻き上げ機構(上図)に特徴があり、“オールドインター”として親しまれていた1950年代から70年代のセンターセコンド・モデルに数多く搭載された。

 両方向巻き上げ自動巻きといえば、IWCの技術責任者アルバート・ペラトンを忘れるわけにはいかない。彼の名をとって伝統的に「ペラトン式自動巻き」と称される機構は、1950年に設計された。ハート型カムやルビーのローラー、ロッキング・バーなどによる切り替え伝達機構を組み込んで、高効率の両方向巻き上げを実現したIWC独特の設計は、時計技術の古典の一つに数えられ、1950年代のキャリバー85系に始まり、現在の自社製自動巻きムーブメントにも継承されている。
 
 両方向巻き上げの自動巻きムーブメントは、切り替え機構が介在しなくてはならないが、IWCのペラトン式のように工夫を凝らした機構がさまざまなメーカーによって開発され、その種類も意外に多いのだが、それらの中で代表的なタイプとなると、次のふたつに絞り込まれる。

 まずは「リバーサー(切り替え車)」と呼ばれるタイプで、初期の自動巻きから最も広く一般的に使われている機構だ。これは、ローターから伝わる回転力をいくつかの小さな歯車の組み合わせによって切り替えつつ減速し、香箱に伝わる力を一方向に整える仕組みである。部品数が多く構造が複雑なのと、ローターの回転に起因する歯車の摩耗、長く使わないでいる場合の固着など、耐久性や故障のしやすさが難点であるとの指摘もあるが、日常ふつうに使う限りでは、まず問題はないだろう。

 また、ローターによる摩擦を軽減し、スムースな回転を実現するために、ローターをボールベアリング上にセットすることも行われた(エテルナ)が、最近オーデマ ピゲの「ミレネリー」に搭載されたリバーサー方式の両方向自動巻きムーブメントでは、22Kゴールド製ローターをセラミック製のボールベアリングに載せている。